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捨てられ第三王子は、信頼を取り戻したいだけなのに、崩壊寸前の辺境領と婚約破棄寸前の令嬢まで任されました  作者: 玖城イサ
第一章

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第35話 逃げ道を塞ぐ

 

 昼前には、会議室の机が紙で埋まった。


 倉庫の原本。

 村別控え。

 門札。

 徴税台帳。

 兵舎受領控え。

 それに、昨夜封をした役室から立会人付きで運び込まれた箱と、机の引き出しの中身。


「これだけあると、さすがに机が狭いですね」


 セリスが言う。


「広い机を用意してくれ」


「次からはそういたします」


 軽口の形だが、声は真面目だった。


 レオンは席につき、三人へ視線を向ける。


「もう一度だけ確認する」

「自分から話すことがあるなら、今のうちに言ってくれ」


 誰も口を開かない。


 徴税担当はまだ強気だ。

 副書記は青い。

 倉庫番は今にも崩れそうだった。


 なら順番だ。


 レオンは最初に、門札と倉庫帳簿を並べた。


「この日」

「倉庫から二十袋出た」

「門札も二十」

「でも村へ届いたのは十二」


 徴税担当がすぐ答える。


「途中で難民へ臨時に回したのでは」


「その臨時配給札は?」


 沈黙。


 セリスが一枚の紙を差し出す。


「当日の臨時出し一覧です」

「該当なし」


 レオンは次へ進む。


「こっちは十五が九」

「こっちは十八が十一」

「毎回、抜かれ方が似てる」


 副書記が小さく首を振る。


「それは偶然の」


「偶然じゃない」


 今度は兵舎控えを置く。


「兵舎への横流しもない」

「粥場控えもない」

「難民側の別札もない」


 倉庫番の呼吸が浅くなる。


 レオンはそこで、木板の刻みを三つの紙の横へ置いた。


「そして村の記録だけが、帳面と同じ日に欠けてる」


 数字が一本の線になる。

 ここまで来れば、もう“見え方”ではなく“つながり方”だ。


 徴税担当はまだ崩れなかった。


「村の木板など証拠になりません」


「それだけならな」


 レオンは頷く。


「だから人も呼んだ」


 扉が開く。

 ドルクが一歩前へ出て、後ろに二人を通す。


 北道の村長。

 そして、壁際にいた痩せた女だ。


 会議室の空気が変わった。


 副書記が露骨に顔をしかめる。

 徴税担当は初めて目を細めた。


 レオンは短く言う。


「聞いた通りに話してくれればいい」


 村長は頷き、木板を指した。


「この日、来たのは十二」

「その次は九」

「樽も袋も、村の前で皆で数えた」


 痩せた女が続ける。


「少ない時は、分け方まで変えました」

「子どものいる家へ先に回して」

「働ける家は後ろにした」


 それは、帳面の外で人が削った順番だ。


 徴税担当が声を荒げる。


「村の記憶など曖昧だ」

「冬場の飢えで混乱していたのだろう」


 女は怯まなかった。


「飢えていたから、覚えてるんです」


 短い。

 だが、それで十分だった。


 会議室が少しだけ静まる。


 レオンは次の紙を出した。

 正式帳簿ではない。

 小さな木札の束に、薄い紙が挟まっている。


「これは、今朝どこで出た」


 セリスが答える。


「徴税役室です」

「封を切る前の立会確認で、机の裏板に差し込まれていました」

「表の台帳には載っていない控えです」


 徴税担当の顔が止まる。


 紙には、日付と数字だけが並んでいた。

 小さい。

 だが妙に綺麗な字だ。


 レオンは机へ置く。


「通行銀の控えだな」

「しかも、配給荷が通るたびに別の銀が動いてる」


 副書記が息を呑む。

 倉庫番が目を見開いた。

 たぶん彼も、そこまでは知らなかったのだろう。


 レオンは紙を指で押さえた。


「減った袋数と大体合う」

「これでもまだ、盗賊と不作のせいにするか」


 徴税担当がようやく声を失う。


「……それは」


「続けるか?」


 レオンは静かに聞いた。


「盗賊のせいか」

「不作のせいか」

「それとも王都の慣例か」


 男の額に汗が浮く。


 倉庫番が先に崩れた。


「私は全部は知りません!」


 震えた声だった。


「副書記から来た数字を書いた」

「袋を減らす日があることも知っていた」

「でも、全部の金の流れまでは」


 副書記が倉庫番を睨む。


「黙れ」


「黙るのはお前だ」


 珍しくドルクが低く言った。

 それだけで、倉庫番は肩を縮める。


 レオンは副書記へ視線を移す。


「お前が数字を整えた」


 副書記は唇を噛んだまま、しばらく黙った。

 そして力なく言う。


「……整えました」

「ですが、私一人ではありません」

「上へ出す報告を乱せば、真っ先に切られるのは私だった」


「だから村を削った」


「私は、回していただけです」

「決めたのは」


 そこで言葉が止まる。

 視線だけが、徴税担当へ向いた。


 十分だった。


 レオンはもう一度、徴税担当に聞く。


「まだ続けるか」


 男はしばらく何も言わなかった。

 やがて、ゆっくり椅子にもたれた。


 強気の顔は消えていない。

 だが、もう逃げ切れると思っていない顔だった。


「……全部を私一人に被せても、領都は綺麗になりませんよ」


「綺麗にするためにやるんじゃない」


 レオンは答える。


「止めるためにやる」


 その時、セリスが机の端に一つの小箱を置いた。

 封蝋はまだそのままだ。


「差し押さえた私物箱の目録作業が残っています」

「申告にない封書が一束ありました」


 フィアナが視線を向ける。


「開けたのか」


「まだです。立会いを揃えてからにします」


 徴税担当の喉が、目に見えて動いた。


 レオンはその反応だけ覚えた。


 今はまだ開けない。

 まずは、この場を終える。


「十分だ」


 レオンは立ち上がった。


「処分を出す」

「今からだ」


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