第126話 条件提示
募集の札は、前より長くなった。
仕事がある。
それだけでは来ない。
来るとしても、続かない。
だからレオンは、仕事の先まで紙に落とした。
住まい。
食糧。
家族帯同。
支払い日。
そして、最初の一季節だけの税の軽減。
「軽くしすぎると、外から来た者だけが得をします」
とヘルマンが言った。
「だから無制限にはしない」
とレオン。
「最初の足場だけ出す」
「定着して働くなら、その後は地元と同じ線へ戻す」
フィアナが文面を見ながら補った。
「仮住まいは出します」
「ただし選べません」
「食糧も当面分だけです」
「税の軽減も、一季節ぶんまで」
「成果もなく留まるだけの優遇にはしません」
「甘くはないですね」
とセリスが言う。
「甘く書いても後で揉める」
とレオン。
それは商人相手でも、配給でも、同じだった。
最初だけ大きく見せるやり方は、今のフェルドには向かない。
机の上には、空き家の控えも並んでいた。
工房区画の端。
旧役人筋の離れ。
冬のあいだ戻らなかった家。
「寝るだけなら使えます」
とフィアナ。
「綺麗ではありませんが、屋根が残っている場所はあります」
「職人を受けるなら、そこから先に直します」
トーマスが腕を組む。
「職人を入れるための家を、先にうちが直すわけですか」
「そうだ」
とレオン。
「増やす手のために、先に手を回す」
ローエンが少し呆れたように笑う。
「理屈は通ってますね」
「嫌われそうですけど」
「知ってる」
とレオン。
「でも今は面子より増やす方が先だ」
文面の最後へ、レオンは短く一行を足した。
――腕で決める。家で決めない。
それを見たフィアナが、少しだけ目を細めた。
「珍しく、人を呼ぶ側の文章ですね」
「いつもは追い出す側みたいな言い方だな」
「事実を言っただけです」
彼女は平然と返す。
「でも悪くありません」
「来る側が、来たあとの生活を想像できます」
そこは大きかった。
仕事があるだけでは足りない。
食えるか、眠れるか、残れるか。
人はその三つで動く。
昼過ぎ、ノアが顔を出した。
札の下書きを読んで、指先で一行を叩く。
「支払い日を入れたのは正解です」
と彼は言った。
「あと税の軽減も」
「“歓迎します”より、よほど信用できます」
「褒めてるのか」
「商人なりに」
ノアは肩をすくめた。
「ただし、これでも来ないかもしれません」
「フェルドの評判は、紙一枚で消えませんから」
「分かってる」
とレオン。
それでも、出さないよりはましだ。
来ないことまで含めて、動かすしかない。
夕方、新しい札が北門、宿屋、市場の端へ貼り出された。
前より読む者は多かった。
最後の一行まで目を落とす者もいる。
だが、読まれることと来ることは別だった。
「朝だけで四人見ましたよ」
とリナが言う。
「二人は職人風、一人は荷車引き、一人はただの野次馬です」
「でもみんな、悪くない顔をして、それで帰る」
「悪くない顔ってどんな顔だ」
「“本当ならいいけど、フェルドだしな”って顔です」
正確すぎて嫌になる。
それでも前よりは止まる。
止まるなら、次がある。
翌日の昼、初めて受付台の前で、
「家族連れでもいいのか」
と聞いてきた男がいた。
まだ応募ではない。
だが札が、生活の計算に入った証拠だった。




