第79章
翌日、正夫が目覚めると、花連はまだ隣で眠っていた。疲れていたのだろう、身じろぎ一つせずに眠っている。
正夫はそっとベッドから出ると、物音を立てないように気をつけながら、ティーカップに紅茶を入れ、新聞を取り、ソファーに座った。
カーテンを少し開けると、柔らかな光が一筋、部屋の中に差し込んできた。
毛布の下で花連はもぞもぞと身体を動かし、しばらくして、「おはよう」とかすれた声で言った。
「おはよう。起こしてしまったかな?」
「ううん。よく眠れたの。こんなにぐっすりと眠ったのずいぶん久しぶり。ねえ、カーテンを開けてくださらない?」
正夫は立ち上がって、カーテンを端まで開けた。早春の澄んだ陽光が部屋の中に溢れた。窓の向こうには青空が広がっている。
「ああ、いい天気なんだ。最高に幸せ。気持ちいい」 花連は上体を起こし、両手で大きく伸びをした。
花蓮はベッドから出ると下着を着た。白いブラジャーと普通の形の白いパンティだった。
正夫はTバックではないパンティを履いている彼女を初めて見た。昨夜は全裸の姿しか見ていないので、気がつかなかった。
「Tバックじゃなかったんだ」
「Tバックはお店用で、お店のロッカーに置いていたのです。普段は普通のパンティを穿いていたんですよ。お店にいた時の下着は全部捨てました。赤の下着だけは川村さんの思い出の物なので、迷ったのだけど、思い切って捨ててしまいました。だから、もう普通のしか持っていません」
「そうか」
真紅の下着といえば、あの時ブラジャーのホックを外すのに戸惑い苦労したことを正夫は思い出した。自分は思い出をよすがとして生きてゆく。しかし、彼女は前を向き、過去と決別し未来に生きようとしている。その若さが羨ましかった。そして、自分のことなどすぐに忘れるだろう。それでいいと思いながらも、心の底にはやるせない気持ちはあった。




