第80章
ホテル内のレストランで朝食を済ませ、部屋に戻ると、正夫は披露宴に出掛けるために礼服に着替えた。 花連はベッドに座って、その様子を黙って眺めていたが、正夫の身支度が終わると、立ち上がり「ねえ、ここに座ってくださらない?」とベッドの端を叩いて言った。
正夫は彼女の意図が分からぬまま、言われたとおりに座ると、突然、彼女は床に正座し、三つ指を立てて、お辞儀した。
「お父さん、今日までありがとうございました」
正夫は半ば驚き、半ば呆れた。
「おいおい、昨日は魔法使いで、今日は父親なのか?」
「違うの。昨日は初めての人なの。今日はお父さんだけど。私にとって、川村さんは、そのどちらでもあるんだから。イヤ……なの?」
「別に嫌っていうわけじゃないけど。……このまま黙って座っているだけでいいんだな?」
「うん。それでいいの」
そう言うと、もう一度彼女はお辞儀をし直した。
「お父さん、今日までありがとうございました。加奈子は今日嫁ぎますが、これまで育ててくれたご恩はけっして忘れません。加奈子はきっと幸せになります」
言い終わると、花連はぴょんと立ち上がり、満面の笑みで「ありがとう。付き合ってくれて」と言った。
「じゃあ、行って来るよ。カギはそこに置いておくから、出掛けてもいいし、掃除はチェックアウトまでしないでくれって言っておくから、部屋にいてもいいよ」
「はい、分かりました。あっ、ちょっと待って、直してあげる」
花蓮は正夫のところに来て、ネクタイを触った。
「はい、これで大丈夫。あなた、いってらっしゃい」 花連は笑いながらそう言うと、彼の頬にキスをした。




