第75章
食事が運ばれてくると、花連は「すごい。このお肉、口の中でとけるよ。こんなの初めて」と言って目を丸くしたり、「これ、すごくおいしいね」と言って微笑んだり、「なんか妙な味がする」と言って眉をしかめたり、「これ、何が入っているのだろう?」と首を傾げたり、一つ一つに感想を言いながら、ぎごちなくナイフとフォークを操って食べていた。
デザートを食べ終わると、飲み物が運ばれて来た。
正夫はレモンティーを飲みながら、
「そろそろ、さっきの話の続きを聞かせてくれよ」と言った。
「うん。わかりました。あっと言う間に七年が経ったっていうところまででしたよね」
彼女は飲んでいたミルクティーのカップを置くと、背筋をぴんと伸ばした。
「そんなある日、店にしょぼくれた中年のおじさんがやってきました。胡麻塩頭の眼鏡をかけた、いかにももてなそうな人でした」
俺のことか、と正夫はがっくりした。
「おじさんは緊張でガチガチになっていたので、彼女は可笑しくなりました」
「そんなに緊張してたかな?」
「してました。すごく寒い日だったのに、暑いとか言ってて、呆れたことを覚えています。……聞くと、こういう店に来るのは三十数年ぶりだそうで、彼女はびっくりしました。そんな人は初めてでした。おじさんは遊び慣れていないので、彼女が少しテクニックを使うと、すっごく感激して帰りました」
「別に感激したってほどではなかったけどね」
「もう。これお話なの。黙って聞いていて。……しかし、おじさんが二度目に来た時、奇跡が起こりました。彼女は生まれて始めて、女の悦びを味わったのです」
「え!そうなんだ。あの時、初めてイッタんだ」
正夫は思わず声が大きくなった。
「もう、こんなお上品なところで、大きな声でイッタだなんて、露骨な言葉を使わないで」
花蓮は眉を顰めた。
「あ、ごめん。ごめん。あまりにびっくりしたから」
「もう」
彼女は 頬を膨らませている。
その顔が面白くて、愛くるしくて、彼は微笑みながら、紅茶を飲み終えた。
「では、もうそろそろ部屋に戻ろうか?」
「はい。待ってください」
彼女はミルクティーを飲み干し、両手を合わせた。
「一生忘れないディナーになりました。ご馳走様でした」




