第63章
弁当は、弁当というよりもパーティー料理と言った方が相応しいものだった。
大きな丸く平らなプラスチックの容器の真ん中に、持ち手に銀紙を巻いたチキンが5本立っていて、その周りをポテトサラダが囲んでいる。
さらにその周りには色とりどりのオードブルが並んでいた。赤いプチトマトや緑のきゅうり、黄色のパプリカや黒いオリーブの実、白いチーズなどがプラスチックの楊枝に串刺しにされている。
外周にはパンのスライスしたものが並んでいて、それぞれのパンの上には、ハムや卵、野菜、海老などの調理されたものが乗せられていた。
こんなに豪華で色鮮やかなものは写真では見たことがあるが、実際に食べたことはない。
「すごいなあ。たまげたよ」
花蓮は得意そうな顔をした。
「真ん中のは手羽元ローストというの。端のはタルティーヌといって、フランス式のオープンサンドなの。どうぞ召し上がれ」
とても食べられそうな量ではない。
そう言うと、「残りは店の女の子で食べるから、好きなものだけ取って食べてください」と言って、紙皿を渡された。
彼女の弁当は店の女の子の間で人気になって、みんなに分けるために最近はたくさん作っているとのことだった。
それも今日で最後になるので、出勤している女の子みんなや店長、店員さんにも食べて貰おうと思って、これと同じものをもう二皿作った。時間と手間をかけて一生懸命作ったのだと言った。
食べてみると、見た目どおりどれも上手い。味付け具合がちょうどよい。
花蓮は正夫が食べているのをしばらく満足そうに見ていたが、それから、部屋を出て、今度はショートケーキを持って来た。
それをナイフで切ると、紙皿に乗せ、「デザートです。後で食べてみて」と言った。
「手作りかい?」と問うと、
「うん、初めて、作ったの」
そう言いながら、彼女は自分のケーキも取り分けた。
彼女は料理の方は食べずにケーキを一口食べ、「あんまり、美味しくないわ」とフォークでケーキをつつきながら呟いた。
正夫も料理を食べ終えた後、ケーキを食べてみた。見た目は良いが、確かにあまりおいしくない。スポンジはパサパサだし、甘さも中途半端でぼやけている。玄人はだしの料理に比べると、随分と落ちる。
妻も若い頃はクリスマスや子供の誕生日には手作りのケーキを作っていたが、妻の作ったケーキの方がおいしかった。
「家庭を持ち、子供が出来て、イベントがある度に何度もケーキを作るようになれば、段々上手くなるよ」
「そういうものなの?」
彼女は不安そうに尋ねる。
「そういうもんだよ」
「うん。きっとそうなるよね」
嬉しそうに微笑んだ。
正夫は頷いた。
それが生きてゆくということなのだろう。




