第62章
花蓮は頼んだとおりに、真っ赤な下着をつけ、白いキャミソール姿で待っていてくれた。
正夫はすぐにプレゼントを渡した。彼女は箱を開けると大きな声を出した。
「わあー!ありがとう!ステキなペンダントね。でも、随分高かったでしょ?」
「うん、結構いい値段だった。ボーナスが出たので、少し余裕があったから」
本当は父の遺してくれた株をまた少し売ったのだが、それは言わなかった。
「わかった。これ、レンゲをイメージしたのね?」
「そう」
「とっても綺麗。大事にするね。川村さんから貰ったクリスマスプレゼントだもの」
「うん、それと結婚祝いも兼ねて」
花蓮はペンダントトップの紫色の宝石を光に翳して、うっとりと眺めていたが、正夫の言葉を聞くとそれを止めて、彼の顔を見つめた。
「やっぱり分かってたんだ。この下着を着てこいって言うから、たぶん分かってるのだろうと思ったんだけど……」
「それ、いつ着ていたか覚えているかい?」
「もちろんよ。忘れる筈ないでしょ。だって、私が初めて、あ、なんでもない。……でも、どうして私が結婚するって分かったの?」
「ネットで見たら、君は今月すごく働いていただろう。それで、もう店を辞めるんだなって。君が店を辞める理由は結婚以外にはないだろう」
「ふーん、やっぱり川村さんは何でもお見通しね」
「こんなのちょっと考えれば、誰だって分かるよ。それより土日に働くことをよく彼が許したな」
「彼は私のことを普通のOLだって思っているでしょ。それで、残っている仕事を全部片づけなければ辞められないからって言ったら、うん、いいよって。
でも、私、稼ごうと思って今月こんなに頑張ってるわけじゃないのよ。こんな私でもひいきにしてくれてるお客様が少しだけどいて、お別れの挨拶をしたかったの。それと、退店すると聞くとお客様も増えるの。急に辞めることになって、お店にも申し訳なくて、少しでも売り上げを上げようとも思って」
「分かってるよ。彼は金持ちのボンボンみたいだから、君がそんなに稼ぐ必要ないしな」
「でも、疲れちゃた。このお仕事、結構体力を消耗するの。……でも、それも今日で終わり」
「今日で辞めるのかい?」
正夫は驚いた。
「うん、川村さんを最後のお客さんにしたかったの。今から、お相手をさせて頂いて、それからお店の人や女の子に挨拶して、ロッカーの荷物を片づけて、それでおしまい」
正夫は花蓮の最近の言動から、彼女が自分に対して特別な好意を持っていることは気づいていた。
それが最高の客としての好意か、客の存在を越えたものかは分からなかったが、自分を最後の客にしてくれたことは、彼女が気持ちを形にしてくれたということになる。それに彼は感激した。
「そうか、ありがとう。君の最後の客だなんて光栄だな」
「今日のお弁当はクリスマスバージョンにしたのだけど、その準備でバタバタしていたので、プレゼントを買うのを忘れたの。私、こういう自分の気が利かないっていうか、ドジなところが嫌になるわ。ホントにごめんなさい」
「そんなことないよ。最後の客にしてくれたってことが最高のプレゼントだよ」
「ホントにそう思ってくれるの?じゃあ、今日はたっぷりサービスするね。ローションプレイも極楽素股もこれが最後。最高に気持ちよくしてあげるね」
花蓮は少しはにかみながら、それでいて、艶っぽい瞳で正夫を見つめた。
正夫は彼女のすべてを記憶に刻み込もうと、身体の隅々まで丹念に愛した。
花蓮は激しく反応した。
正夫が果てたあと、花蓮は「これで終わりね」と呟くと、彼の身体の上に突っ伏して、すすり泣いた。
花蓮は十九歳の時にこの店で働き始めたと言っていた。
七年間、働いたわけで、今、彼女の胸にはこれまでの様々な出来事が去来しているのだろう。
十九から二十六まで、人生で一番貴重な時期を男を悦ばすことに捧げてきた彼女の気持ちには、自分には到底計り知れないものがあるように思われた。
辛いことがいっぱいあっただろう。屈辱的な思いをしたことも、数回、いや、数十回もあっただろう。何度も悩み、何度も苦しんだだろう。
正夫はねぎらうように優しく彼女の髪を撫で続けた。




