第52章 十一月
十一月の初めの火曜の夕方に、登録していないアドレスからメールがきた。会議中だったが、開けてみると、花蓮からであった。
直接話したいので、いつ電話をしたらいいか教えてくれという内容だった。
もう二度と連絡がないかもしれないと思っていた彼女からのメールに正夫は目を疑った。
あれから10日も経っていない。
悲嘆のどん底にいたのが、一気に歓喜の絶頂へと駆け上がる。
頭の中では、二人のトランペットを持った天使が現れ、ファンファーレを鳴らし、くす玉が割れ、紙吹雪が舞った。
こんな感覚になったのは生まれて初めてのことだった。
周りに気取られないようにポーカーフェイスを作りながらも、内心はニヤついて何度もメールを読み返していたが、ふと疑問が湧いてきた。
彼女が電話で話したいと言ってきたのは初めてのことだった。
この前のことについて話したいのだろうか?
いや、そんな筈はない。
彼女は気遣いの出来る性格なので、こんな時間に、それも電話してくれなどと言う筈がない。それにメアドが変わっているのも変だ。何か突発的なことが起こったに違いない。
胸騒ぎがし、すぐにでも電話をかけたかったが、席を外すわけにはいかない。それで、机の下でこっそりとメールを打った。
「ごめん。今、会議中。仕事が終わったら、こちらから電話をするから」
すぐに返信があった。
「お仕事中に本当にごめんなさい。 お仕事が終わってからで大丈夫です。電話番号を変えたので、下の番号に電話してください」
「課長、川村課長はどう思われますか?」
その声で我に返った。会議などどうでもよかったので、話を全く聞いていなかった。それで、なんと答えたらいいか、一瞬焦ったが、
「まあ、そうですね。皆さんの意見に合わせます」と適当なことを言って、ごまかした。




