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花とたゆとう ふたたび  作者: 御通由人
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第36章 閑話その三続き

 友人と別れた後、正夫は考え続けた。

 女が原因で家庭が崩壊し、社会的に失敗者の烙印を押された同級生は知っているだけで、Tも含めると三人になる。

 

 一人は地銀に勤めていたが、単身赴任中に女子社員と関係を持ち同棲し始めた。奥さんにはそいつの方から別れてくれと頼んだらしいが、その後、地元勤務に戻ると、若い愛人には逃げられ、仕事の方も窓際族となり、一人淋しく暮らしているそうだ。

 もう一人は成長著しい地元企業のワンマンオーナーの娘と結婚した。当時は、逆玉に乗ったと友達の間でも羨望の的だった。若くして重役になり、将来は社長の座が約束されていたのだが、愛人を作り、それがばれて会社は首になり、家も追い出されてしまった。その後、その愛人と再婚し、子供も生まれ、今はコンビニで働いているという噂だ。


 三百人中三人。わずか1パーセントと思ったらいいのだろうか?

 いや、高校を卒業して40年。何をしているのか、どこに住んでいるのか、分からない奴の方が多い。他にも何人もいるに違いない。


それにしてもTの行動は愚かで、あまりに身勝手で無責任極まりない。残された家族が哀れなのは無論だが、Tにしても今後どうするつもりなのか?どれだけの金を持っていったのか知らないが、一生遊んで暮らせるほどではあるまい。金がなくなったらどうやって生活してゆくつもりなのか?この歳では見知らぬ土地で新しい仕事を見つけるのも容易でないだろう。

妻と娘を捨て、路頭に迷わせるなど自分には到底出来やしない。

  

 しかし、今の自分には彼らの気持ちが全く理解できないというわけではないし、彼らを失敗者とも思わない。

 昔だったら、若い女の肉体に溺れて身を滅ぼした愚かで哀れな奴としか思わなかっただろう。

 しかし、彼らを狂わしたのは相手の女ではなく、彼ら自身の心のときめきであると、今は思う。

 恋をし、みずみずしさを取り戻した心が尊く、何物にも代え難いほど貴重に思われたので、過去のすべてを捨て去るほどの気持ちになったのだろう。


「家族のためにがむしゃらに働いて、あっと言う間に二十年三十年が過ぎ、仕事の先が見え、子どもも手が離れて、ふと気づくと、自分に何が残っていたかと思うと、なんともやるせなくて淋しいよ」

 以前、別の友人が言っていた言葉が蘇ってくる。

 われらの時代の男というものは、一部の幸福な者を除くと、大体同じようなものではないだろうか?


 人生の道のりの終盤近くまで走り抜き、ふと立ち止まって周りを見ると、走り続けた褒美として、多少の地位を得、幾許かの財産は残っている。が、個人としての自分に何が残ったのだろうか?

 若い時の夢も希望も熱い心もすべて失ってしまい、何も残っていないのではないだろうか?


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