第33章 七月
七月はフリルのついた薄いピンクの下着を着ていた。これも新しく買ったものだと言う。
「毎月、新しい下着を買っていたら、物入りじゃないか?」
「いいの。これもお仕事上必要なので、必要……何でしたっけ?」
「必要経費だろう?」
「そうそう。必要経費。……でも、私よりも川村さんの方こそ毎月高いお金を使ってくれて、大変じゃないですか?新幹線代もいるし。ロングでなくていいのよ。ちょっとでも会えるだけで幸せだから」
正夫はいつも120分のロングコースを選んでいた。料金は多少の割引はあるが、ショートコースの倍近くになる。そのうえ、さらに30分、60分と延長することもあった。
しかし、それは花蓮の売り上げを上げるためなどではなかった。少しでも長い間一緒にいたかったからである。
「あ、それでね。今日もお弁当を作ってきたの。今日は手作りのシュウマイを作ってきたのだけど、匂いがすごくって。みんなが臭いから早く食べろと責めるの。だからね、今日は最初にお昼を食べて、あとでエッチしましょ」
一目で手作りと分かる不揃いでいびつな形をしたシュウマイが入っていた。皮もきちんと付いていなくて、所々剥がれている。
食べてみると、見かけ同様、まずい。へんな臭いだけして味がなく、口の中でもそもそする。それに上に乗っているグリンピースは固い。
「どう?やっぱりまずい?」
花蓮は心配そうに、正夫の表情を窺った。
「いや、まあまあいけるよ」
最近の若い女の子で、料理が得意な子はあまりいないだろう。娘にしたってインスタント料理ですら満足に作れるかどうか分かったものではない。
それに、料理の得意な子が作ってくれても有り難いが、ほとんど料理をしたことがない彼女が自分のために一生懸命に作ってくれたと思うと、一層有り難みが増す。
花蓮は一つ取って口に入れると、「まずい」と言って、すぐに吐き出した。
「なんか臭いわ。川村さん無理して食べなくていいです。もう捨てましょ」
彼女が片づけようとするのを正夫は制止し、
「そんなことないよ」
そう言って、残りの四個を一気に口に入れて食べてしまった。
彼女はそんな様子を呆気に取られて見ていたが、
「やさしい」と小声で言いながら、正夫の肩に頭を乗せてきた。
花蓮は以前よりも容易に、しかも激しく絶頂に達するようになっていた。それから、いつもと同じように彼の腕にしがみついて、しばらくの間、じっと動きを止めた。
彼女が少し身体を動かした時、正夫は彼女の頬を両手で挟み、顔を見つめながら、「愛してる」と思わず言った。
普段なら恥ずかしくて到底言えやしない言葉が自分の口から自然に出たことに彼は驚いた。
この部屋の非日常の雰囲気がそうさせたのだろうか?
焼売を作ってくれた彼女の真心に感激していたからだろうか?
本心がポロリと口から出た。
しかし、彼女はその言葉には何の反応も示さなかった。ただ、大きく目を開き、無表情で正夫の顔を見つめるだけだった。
「そんなことは言わないで」
花連は蚊の鳴くような、か細い声で言うと、正夫の胸に顔を埋めた。




