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花とたゆとう ふたたび  作者: 御通由人
32/86

第32章

 正夫は以前飼っていた犬の話をした。

 もう二十年も前のことになる。

 冬のある日、帰宅途中に近所の電柱の下に置かれている段ボール箱に気が付いた。

 中を覗くと、生まれたばかりの黒い子犬が体を横たえていた。だいぶ衰弱している様子で、この寒さの中でもう一晩放っておくと死ぬのは確実だと思われた。正夫は仕方なく家に連れて帰り、そのまま飼うことにした。

 しかし、体が弱く、よく病気をした。

 犬は人間のように保険がきかないので、病院代も大変で、散々苦労させられることになった。 

 ほ乳類の母親が生まれたばかりの子に与える最初の乳、いわゆる初乳には免疫システムを作る物質が含まれていると聞いたことがある。その初乳を飲んでいないために、その後もずっと弱いままだったのかもしれない。そういう話をした。


「その犬はもう死んじゃったの?」

「うん、もうとっくに。五年ぐらいしか生きていなかった」

「犬も人間と同じなんだ。小さい時に愛情が与えられなければ、弱くなるのね」

 花蓮は遠くを見るような目になり、ぽつりと言った。

 

 その後、花蓮は腕枕をしてくれと甘えた声で言った。

 こうしていると、すごく幸せな気分になるのだと言った。


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