第31章 六月
六月、いつものようにシャワーを浴び、ベッドに座った。
花蓮は弁当を作っていた。
一方の容器にはおにぎりが、もう一方にはおかずが入っていて、卵焼きやウインナーのような定番のおかずに混じって、シュウマイが入っていた。
「へぇー、弁当にシュウマイとは珍しいな」
「この前、川村さんが言ってたじゃない。新幹線の中でシュウマイ弁当を食べるのが楽しみだけど、家に帰ってご飯を食べなければ奥さんに怪しまれるので、食べられないのが残念だって。それならお店で食べていったらいいと思って、作ってきたの」
そう言われてみれば、そういう話をしたような気がする。彼女は本当に記憶力がいい。
「料理は得意なのかい?」
「ううん、全然ダメ。ほとんど作ったこともない。だから、それは冷凍食品なの。ほんとは手作りしようと思ったんだけど、お母さんも作ったことがないって言うし、お料理の本を見て、作ろうとしたけれど、上手くいかなかったの。ごめんね」
「いや、そんなことないよ。十分だよ。ありがとう」
そう言った後、正夫はふと気になって、付け加えた。
「寮に住んでいるんじゃないんだ」
「えっ?……はい。家族と一緒に実家に住んでいます」
花蓮は自分のことはあまり話さず、正夫の話を聞くことを好んだ。
ただ、ペットの話になると、よく喋った。
「生き物っていいですよね。なんだか生き物を見ていると癒されると思いませんか?」
そう言って、飼っている金魚とハムスターの話をし始めた。
金魚は数年前、露店の金魚掬いで取ってきたもので、二匹いる。
大きい方はデカ、小さい方はチビと名付けたが、今は二匹ともずいぶん大きくなって、デカはフナぐらいの大きさになり、チビでも小ブナくらいの大きさはある。もうあまり可愛くはない。だから、今度は大きくならないメダカを飼いたいと言った。
ハムスターもオスメスの二匹を飼っていて、オスはハム吉、メスはミー子と名付けている。ショピングモールのペットショップに入った時、たまたま見かけたメスのハムスターの目を細めた顔が自分によく似ていると思い、衝動買いしたとのことだ。
「ひとりでは淋しいだろうから、オスも買ってあげたの」
「ミー子とは変わっているね」
「私に似ているから、私の子という意味でミー子と付けたの。アイ子とかマイ子とかにしたら、なんか人間の名前のようで嫌でしょ?
だから、ミー子にしたのだけど、弟たちから普通ミーコというのは猫につける名前だから変だって言われたの。ねえ、どうしてミーコっていうのは猫の名前なの?猫もキャットも「み」の字はついていないし、泣き声もにゃーなのに」
「たぶん、三毛猫が多いからじゃないかな。よく三毛という名前を付けるじゃない。それで雌猫だったから子をつけて、みけこ、それが転じて、ミーコになったんじゃないかな。本当のところは僕もよく分からないけど」
「ふーん。そうなんだ。川村さんって、何でもよく知ってるね」
それから彼女は2匹のハムスターの絵を描いた。そして、下に稚拙な字で「ハム吉、ミー子」と書いた。
彼女は話によく擬態語や擬声語を使った。
金魚に餌をやる時の様子を「えさをね、パラパラとまくと、デカはピューッと寄ってきて、パクッと食べるの」というように。




