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花とたゆとう ふたたび  作者: 御通由人
23/86

第23章

 花蓮は真紅の下着姿で黙ったまま正夫の前に立った。正夫は唇を重ねた。彼女は舌の侵入を拒まず受け入れた。 

 

 数分後、じっと横たわったままであった花蓮が、大きく体をのけ反らせた。正夫はびっくりして、顔を彼女のそばに近づけた。

「どうしたの?」

「わかんない。わかんない。わかんないの。こんなの初めて」


 突然、彼女の両足が内側にねじられ、足の指が何かを掴もうとするかのように下に曲がり、身体が痙攣するようにビクビクビクと上下に大きく動いた。

 それから、悲鳴とも泣き声ともつかぬ声を上げると、花蓮はいきなり上体を起こし、身を反転させて、俯せにベッドに突っ伏した。

 正夫はまたも驚いた。身体を横向きにし、彼女に寄り添うように片肘をつき、彼女の背中にそっと手を当てて、優しく尋ねた。

「どうしたの?泣いているの?」

「……ううん。イッタの……」

彼女は幼な子のように頭を振って、泣きながら、正夫の胸に顔を埋めた。 


 花蓮は二度絶頂に達した。

 行為の後、正夫は半身を起こして、うつ伏せになった花蓮の背中を撫でた。

 花蓮はくすぐったいのか、小さく笑いながら、時々身を捩る。

「くすぐったい?」

「くすぐったいのと、気持ちいいのが半々」 

「感じやすいのかな?」

「……」

 返事がなかった。

 正夫は手の動きを止めた。

「自分じゃ分からないか?」

「ううん、そうじゃないの。私、あまり感じないの。濡れもしないの。濡れていないのに指を入れられて、ごしごしされるとすごく痛いの。それなのに、お客さんからはやる気があるのかって、叱られたりして、どうしようかと困っちゃう時がよくあるの」

「二度目はビショビショだったよ」

花蓮は恥ずかしそうに、顔を正夫の胸に埋めた。

「操を立ててくれたし、新幹線に乗ってまで会いに来てくれて、きっと、ダブルで感激したせいだわ」


そうに違いない。

音の振動が波となって空気を伝わるように、感情のさざ波が全身を伝わり、共鳴させるのだろう。

 女性の身体の不思議に正夫は感嘆し、唸るような気持ちだった。女の人は頭でセックスをするということを雑誌などで何度か読んだことがある。それをこの歳になって身を持って知ることになるとは夢にも思わなかった。


「それに、私、ひょっとしたら、ファザコンなのかもしれない」

 花蓮は独り言のようにぽつんと呟いた。

が、正夫はそれを気に留めず、彼女をからかいたくなって、軽口を叩いた。

「締まりが良くて、指にひっついてくるようだった」

「もう、エッチなんだからあ。またそれを言う」

 花蓮は顔を埋めたまま、正夫の腕を軽くつねった。

 そういえば、先日も今日も行為の最中にそういうことを言ったのを、彼は思い出した。


「ずいぶん長い間使っていないからかもしれない」

 花蓮は顔を上げて、またぽつりと言った。

「へえー。彼氏はいないんだ?」

「うん、いないの」

「もったいない。こんないい女をほっとくなんて」

「そうでしょ。自分でももったいないと思います」

そう言って、花蓮は猫のように目を細めた。それから急に起き上がり、いきなり正夫の股間に手を伸ばした。

「何か感触がすると思ったら、こいつ、また、むくむくと大きくなっているぞー」

 そう言って、バスタオルの上から正夫のものを掴み、そのまま仰向きに横になった。


「花蓮は本当に可憐だな」

「えっ、花蓮はいつも花蓮よ」

「いや、そうじゃなくって、後のかれんというのは可愛いという意味だよ」

「そうなんですね」  

 そう言うと、彼女は大きくあくびをした。

「なんか、こうしていると幸せ……。こうしていつまでもまったりしていたいわ……私……、眠くなっちゃった……」

「花蓮という名前は誰が決めたの?」

「……お店の社長さんがつけてくれたの……」

「社長さんていうのは、いつもフロントにいる人?」

「……ううん、あの人は店長。……社長は他の店も持っていて、忙しいみたいで、店には滅多に来ないの……」

「ふーん、そうなんだ。しかし、いい名前を付けて貰ったな。蓮の花か……。

 初めて、カフェで君を見た時は、大輪の蓮の花のように孤高で気高い印象だったが、こうして店に来てみると、蓮の花というよりレンゲ草に似ている感じがする。

 レンゲは蓮華と書いて、蓮の花に形が似ているところからその名がついたそうだが、小さい赤みがかった薄紫の花がたくさん連なって咲いている様子は、蓮の花とは印象が全然違う。

 僕の家は田舎だから、昔は周りに田圃がいっぱいあってね。今の季節にはその田圃は赤紫のレンゲの花が一面に咲いていて、まるで絵に描いたような見事な景色だったよ」

「……」


 いつの間にか花蓮は眠っていた。

 正夫の左腕の上に頭を置き、彼の方を向いて、裸のまま寄り添うように眠っている。 

 彼女の右手は下に伸びて、正夫のものを掴んだままである。

 綺麗にカールした睫毛が鼻筋の通った端正な顔立ちによく似合っている。唇の隙間から軽く寝息を立てている。

こうしていると、正夫も幸せな気持ちになってくる。頭では偽物の幸福だということは理解している。しかし、心の中には安らかで甘く暖かい微風が流れている。

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