第24章
突然、ベッドの脇のボックスの上に置かれている時計が、けたたましいブザー音を鳴らした。花蓮は起き上がり、時計を止めた。
「ごめんなさい。知らない間に眠ってしまっていて。……今日はもう時間が来たみたい」
「また来るよ。次に土曜日か日曜日に店に出る予定はあるの?」
「えっと……」
そう言うと口籠った。
正夫の方を指差しながら、
「来れる日を連絡してくれたら、その日は出勤します」
その時、正夫はまだ自分の名前を教えていないことに気づいた。
「川村です」
「川村さんっていうんだ……」
花蓮は何か言葉を続けようとしていた。たぶん名前に対する感想を言おうとしているのだなと思った。だが、なにも思い浮かばないらしく、黙りこくった。
その様子が少女のように可愛く、正夫は吹き出した。
「いやだ。笑わないで。何を言おうとしたのか、忘れちゃったじゃない……ねえ、LINE交換しましょうか?」
「していない」
「えー!LINEしていなんですか。していない人、初めて見ました」
珍しい生き物ものでも見るように、目を丸くして、正夫をまじまじと見た。
LINEどころかスマホを買ったのもそう昔のことではない。息子が結婚する三年前に家内や娘に流石にかっこ悪いからと説得され、ガラケーから買い替えたのだった。
「メールで十分だろ?」
「用件を伝えるだけなら十分だけど。文だけだと感情が伝わらずにきつい調子になることがありますよね?スタンプとかあったら便利ですよ。それだけで済む時もあるし。……でも、今日はもう時間がないですね。では、電話番号を言ってください。私がかけるから」
そう言われて、正夫はスマホの番号を教えた。
着信音がなった。
「登録お願いします。電話でもショートメールでも川村さんの好きな方で、ご連絡してくれたらいいです」
「来月、また来るから」
そう言うと、
花蓮は「うん」と頷き、弾けるような笑顔を見せた。
そして、両手を身体の前で合わせて、ぴょこんと頭を下げた。




