第9話 森の中の観光名所
ドールハウス風住宅が完成してから一週間。
私の家は大変なことになっていた。
「うわぁ……」
朝。
玄関を開けた私は固まった。
家の前に人がいた。
一人ではない。
五人。
十人。
十五人。
かなりいる。
「なんで!?」
思わず叫ぶ。
すると見慣れた顔が手を振った。
ハンナだった。
「おはよー!」
「おはようじゃない!」
私は慌てて駆け寄る。
「なにこれ!?」
「見学だよ」
「見学!?」
意味が分からない。
私の家である。
ただの家だ。
しかし村人達は真剣だった。
花壇を見ている人。
窓を見ている人。
屋根を眺めている人。
ベンチに座っている人。
完全に観光地だった。
「リリアちゃん」
年配の女性が近付いてくる。
先日、『素敵な家ね』と言ってくれた人だ。
「どうしたんですか?」
「うちの庭も見てくれない?」
「庭?」
「なんだか殺風景でねぇ」
私は驚いた。
この世界でそんなことを言う人がいるとは思わなかった。
すると別の人も言う。
「俺の家も」
「私も!」
「窓を大きくしたい!」
次々と声が上がる。
私はぽかんとした。
モルガンが苦笑する。
「みんな影響されたんだ」
「え?」
「リリアの家を見てな」
村長は周囲を見回した。
「今まで誰も考えたことがなかったんだよ」
そして静かに続ける。
「住めればいいと思っていた」
私は黙る。
モルガンは笑った。
「でもな」
「?」
「綺麗な方がいいな」
その言葉に周囲も頷いた。
私は少し嬉しくなった。
前世でもそうだった。
小さな装飾。
小さな工夫。
それだけで気分が変わる。
生活が楽しくなる。
それを少しでも伝えられたなら嬉しい。
その時。
「ここか」
聞き慣れた声がした。
アルトだった。
森から戻ってきたらしい。
背中には大量の木材。
普通の人なら運べない量だ。
やっぱりおかしい。
だが村人達は気付いていない。
アルトは家を見て。
人の多さを見て。
少し笑った。
「人気だな」
「予想外よ」
「予想できた」
「できたの?」
「できた」
即答だった。
悔しい。
するとアルトが一枚の紙を広げた。
私は目を見開く。
それは設計図だった。
「なにこれ?」
「暇だったから」
暇だったから作るものではない。
そこには。
家の増築案。
庭の改良案。
花壇の配置案。
全部描かれていた。
しかも。
上手い。
異常に上手い。
私は思わず見入った。
「すごい」
「そうか?」
「すごい」
本気だった。
私でも思い付かなかった工夫がある。
採光。
風通し。
動線。
全部計算されていた。
私はアルトを見る。
アルトは嫌な顔をした。
しまった。
という顔だった。
「アルト」
「なんだ」
「本当に旅人?」
「旅人だ」
「嘘」
「旅人だ」
「絶対嘘」
アルトは目を逸らした。
怪しい。
ものすごく怪しい。
するとハンナが割り込んできた。
「二人とも!」
「?」
「依頼!」
振り返る。
そこには村人達が並んでいた。
一人。
二人。
三人。
どんどん増えている。
全員真剣な顔だ。
私は嫌な予感がした。
モルガンが咳払いする。
「リリア」
「はい」
「相談なんだが」
「はい」
「村を少し綺麗にできないか?」
私は固まった。
村。
今。
村と言った?
モルガンは続ける。
「花壇とか」
「小道とか」
「ベンチとか」
「そういうのだ」
周囲も頷いている。
みんな本気だった。
私は村の方角を見る。
確かに。
道は土むき出し。
家は四角。
広場もない。
少し手を入れるだけでかなり変わるだろう。
その時。
クラフトガイドが光る。
眩しいほどに。
【大型クエスト発生】
【村を発展させよう】
報酬
【街づくり機能解放】
【公共施設レシピ解放】
私は息を呑んだ。
ついに来た。
家づくりの次。
その先。
街づくり。
私は本を閉じる。
そして。
ゆっくり笑った。
「やります」
村人達が歓声を上げる。
ハンナが飛び跳ねる。
モルガンが笑う。
グレッグが頷く。
そしてアルトだけが。
どこか楽しそうな顔で空を見上げていた。
その日。
森の中の小さな家から始まった物語は。
一人の少女の趣味ではなく。
村全体を巻き込む大きな挑戦へと変わったのだった。




