第8話 憧れのドールハウス風住宅
「次は本気の家を建てるわ」
そう宣言した翌朝。
私は机の上に大量の紙を並べていた。
「……なにしてるんだ?」
アルトが覗き込む。
「設計図」
「設計図?」
この世界にはあまりない文化らしい。
アルトもハンナも不思議そうな顔をしていた。
私は紙を広げる。
窓の位置。
部屋の配置。
庭とのバランス。
屋根の形。
煙突。
玄関。
全部描いてある。
前世で何百回も見たドールハウスの記憶を総動員した。
「これが家?」
ハンナが目を丸くする。
「うん」
「お城みたい!」
「まだまだよ」
私は首を振った。
理想には程遠い。
だが今できる範囲では最高の設計だ。
アルトはしばらく図面を眺めていた。
そして小さく呟く。
「面白い」
「でしょ?」
「普通は先に作る」
「私は先に考える」
アルトは少し笑った。
その笑顔が妙に楽しそうだった。
そして工事開始。
まず今の家を解体する。
ハンナが悲鳴を上げた。
「壊しちゃうの!?」
「壊す」
「せっかく作ったのに!」
「もっと良いの作るから」
素材は戻る。
だから遠慮はいらない。
私は次々と木材を回収した。
家が消える。
代わりに広い土地が残る。
そこへ新しい基礎を置いていく。
まずは土台。
次に壁。
大きな窓。
玄関ポーチ。
花壇スペース。
そして特徴的な赤い三角屋根。
木材が舞う。
石材が組み上がる。
クラフトスキルがフル稼働する。
途中からアルトも手伝い始めた。
いや。
手伝うというより。
普通に上手かった。
異常なほど。
「そこもう少し角度変えて」
「こうか?」
「そう!」
完璧だった。
一発で理解する。
やっぱり普通じゃない。
だが今は気にしない。
家の方が大事だ。
三日後。
ついに完成した。
私は少し離れて全体を見る。
そして。
言葉を失った。
可愛い。
本当に可愛い。
白い壁。
赤い屋根。
丸い窓。
花壇。
木製フェンス。
まるで絵本から飛び出してきたような家だった。
前世で憧れていたドールハウス。
その夢が現実になった。
「できた……」
思わず涙ぐむ。
ハンナは大騒ぎだった。
「すごい!」
「可愛い!」
「住みたい!」
家の周りを走り回っている。
アルトも見上げていた。
そして。
珍しく素直に言った。
「綺麗だな」
私は嬉しくなった。
その時だった。
遠くから声が聞こえる。
「どこだ!」
「本当にあるのか!?」
「見えるぞ!」
森の向こうから人が来る。
一人ではない。
二人でもない。
十人近い。
村人達だった。
先頭にはモルガンとグレッグもいる。
私は目を瞬かせた。
「なんでこんなに?」
ハンナが苦笑した。
「たぶん噂」
「噂?」
「森に変な家があるって」
変な家。
少し傷付いた。
だが否定はできない。
村人達は家を見る。
そして。
全員固まった。
沈黙。
数秒。
十数秒。
やがて一人が呟く。
「なんだこれ……」
別の村人が言う。
「家?」
さらに別の村人。
「貴族の館じゃなくて?」
モルガンが首を振る。
「家だ」
「家?」
「家だ」
以前と同じ会話だった。
私は少し笑ってしまう。
すると年配の女性が近付いてきた。
恐る恐る壁を触る。
窓を見る。
花壇を見る。
そして。
「素敵ねぇ」
と言った。
その言葉に周囲がざわついた。
女性は続ける。
「なんだか幸せになりそうな家」
私は胸が熱くなった。
それだ。
それが作りたかった。
住むためだけじゃない。
帰りたくなる家。
見ていて幸せになる家。
そのために作ったのだから。
するとクラフトガイドが光る。
【特殊条件達成】
【景観評価 村レベル】
【新レシピ解放】
【街路樹】
【街灯】
【噴水】
私は目を見開いた。
街灯。
噴水。
つまり――
家づくりの次だ。
街づくり。
私は思わず笑った。
まだ早い。
まだ家を作っただけだ。
だけど。
確実に次の扉が見えている。
その時。
アルトが隣に立った。
「何を笑ってる?」
私は新しいレシピを見せる。
アルトは目を細めた。
そして。
「なるほど」
と言った。
「次は家じゃないんだな」
私は大きく頷いた。
「うん」
その瞳は輝いていた。
「次は景色を作る」
村人達がざわめく。
アルトだけが楽しそうに笑った。
こうして。
森の中の小さな家は完成した。
そしてリリアの夢は。
一軒の家から、一つの街へと少しずつ広がり始めるのだった。




