第7話 動物小屋と謎の旅人
アルトが滞在を始めて三日。
私はあることに気付いていた。
「この人、絶対普通じゃない」
家の前で腕を組む。
アルトは現在。
薪割り中だった。
コン。
ポン。
木材×20
コン。
ポン。
木材×20
「早い」
異常に早い。
私の倍はある。
いや、三倍かもしれない。
ハンナも隣で呆然としていた。
「すごいね」
「すごい」
「旅人ってみんなああなの?」
「違うと思う」
たぶん違う。
絶対違う。
するとアルトが振り返った。
「どうした?」
「なんでもない」
私は慌てて目を逸らした。
まだ聞かない。
聞いても教えてくれなさそうだし。
その時。
家の近くから鳴き声が聞こえた。
「メェー」
「あれ?」
振り返る。
白い毛玉がいた。
羊だ。
小さな羊が庭の近くを歩いている。
ハンナが目を輝かせた。
「かわいい!」
羊は逃げない。
むしろ近付いてくる。
そして。
花壇の花を食べた。
「あーーーーっ!」
私の悲鳴が森に響いた。
羊はモグモグしている。
大事な花壇。
三日かけて育てた花壇。
半分消えた。
「だめぇぇぇぇぇ!」
私は慌てて追いかける。
羊は逃げる。
私も追う。
ハンナが笑う。
アルトまで笑っている。
許せない。
数分後。
なんとか捕獲した。
私は羊を抱きかかえながら真剣な顔になる。
「対策が必要ね」
「対策?」
アルトが聞く。
「動物小屋を作る」
即答だった。
するとクラフトガイドが光る。
【新規クエスト】
【家畜を飼育しよう】
報酬
【牧場クラフト解放】
「ほら!」
私は本を見せる。
ハンナが目を輝かせた。
「牧場!」
「牧場!」
盛り上がる私達。
アルトは少し苦笑した。
そして。
「手伝うよ」
と言った。
私は驚く。
「いいの?」
「ああ」
アルトは肩をすくめる。
「俺も興味がある」
そう言って木材を持ち上げた。
作業開始である。
まずは柵。
木材を並べる。
組み上げる。
そして小屋。
屋根。
壁。
餌箱。
水飲み場。
私は設計する。
ハンナは材料を運ぶ。
アルトは組み立てる。
すると。
私はある光景を見た。
木材が。
勝手に組み上がっていく。
異常な速度で。
「あれ?」
私は目を瞬かせた。
今の。
私より上手くなかった?
アルトは気付いていない。
普通に作業している。
だが。
明らかにおかしい。
釘もない。
ミスもない。
完璧だった。
グレッグですらここまで綺麗には作れない。
「アルト」
「ん?」
「クラフト得意?」
アルトが固まった。
一瞬だけ。
本当に一瞬だけだった。
「普通だよ」
嘘だった。
分かりやすい。
ハンナですら気付くレベルだ。
「今嘘ついた」
「ついたね」
ハンナまで頷く。
アルトは困った顔になった。
そして。
「少しだけ得意だ」
と言い直した。
少しどころではない。
だが追及はやめた。
誰にでも秘密はある。
それに。
今はもっと大事なことがある。
私は完成した小屋を見た。
可愛い。
かなり可愛い。
普通の家畜小屋ではない。
小さな窓。
木製の看板。
花壇付き。
完全にリリア仕様である。
「よし!」
私は満足した。
その瞬間。
【牧場クラフト解放】
【動物好感度上昇】
表示が出た。
すると。
捕まえた羊が近付いてくる。
私の足に顔を擦り付けた。
「え?」
メェー。
可愛い。
非常に可愛い。
ハンナが叫ぶ。
「懐いた!」
「懐いた!」
私は思わず抱きしめた。
ふわふわだった。
最高だった。
その様子を見ていたアルトが笑う。
「楽しそうだな」
「楽しいよ」
私は即答した。
家ができた。
庭ができた。
井戸ができた。
動物小屋もできた。
少しずつ理想の暮らしに近付いている。
そんな時だった。
アルトが何気なく言った。
「次は何を作るんだ?」
私は当然のように答えた。
「もっと大きい家」
ハンナが驚く。
「まだ大きくするの!?」
「する」
アルトも驚いた顔になる。
私は家を見上げた。
確かに今でも住める。
十分住める。
だが。
理想には遠い。
ドールハウスみたいな家。
童話に出てくるような家。
誰もが見た瞬間に笑顔になる家。
それを作りたい。
私は拳を握る。
「次は本気の家を建てるわ」
その宣言に。
アルトはなぜか楽しそうに笑った。
そして心の中で思う。
――やっぱり面白い。
王都にも。
貴族にも。
こんな人間はいなかった。
そのことを。
まだリリアは知らないのだった。




