第5話 庭づくり開始
翌朝。
私はいつもより早く起きた。
理由は簡単。
庭を作るためだ。
「よし!」
家の前に立ち、大きく伸びをする。
小さな家。
木製の扉。
可愛い窓。
だが、まだ足りない。
圧倒的に足りない。
「家だけじゃ完成じゃないのよ」
私は真剣な顔で呟いた。
家には庭が必要だ。
花壇が必要だ。
小道が必要だ。
ベンチも欲しい。
そうして初めて景観が完成する。
すると。
「おはよー!」
元気な声が聞こえた。
ハンナだった。
朝から走ってきたらしい。
息を切らしながら笑っている。
「おはよう」
「今日は庭作るんでしょ!?」
「作る!」
「やったー!」
完全に弟子である。
私は少し笑った。
前世では一人で作業することが多かった。
だから誰かと一緒に何かを作るのは少し新鮮だった。
まずは材料集め。
花。
石。
木材。
二人で森を歩き回る。
するとハンナが不思議そうに聞いてきた。
「ねぇリリア」
「なに?」
「庭って必要?」
私は足を止めた。
そしてゆっくり振り返る。
「必要」
即答だった。
ハンナは首を傾げる。
「でも住むのは家の中だよ?」
「そうだけど」
「だったら家だけでよくない?」
私は思わず空を見上げた。
やはりこの世界の人々は根本的に考え方が違う。
前世ならガーデニングは人気だった。
庭付き住宅は憧れだった。
しかしここでは違う。
「ハンナ」
「うん?」
「家に帰る時って嬉しい?」
「うん」
「だったらもっと嬉しくしたくない?」
ハンナは考える。
数秒後。
「なるほど?」
たぶん分かっていない。
私は諦めた。
完成したら理解してもらおう。
その方が早い。
昼頃。
材料が集まった。
私はクラフトを開始する。
まずは花壇。
石を並べる。
土を整える。
花を植える。
赤。
黄。
白。
色を分けながら配置する。
すると。
【園芸スキル習得】
表示が現れた。
「おお!」
さらに花が少し光る。
葉の色が鮮やかになる。
花が元気になる。
「便利!」
クラフトスキルだけではないらしい。
園芸も存在する。
私はさらに夢中になった。
次は小道。
家の入口から小川まで。
石を並べて道を作る。
まっすぐではない。
少し曲線を付ける。
その方が自然だから。
「なんで曲げるの?」
ハンナが聞く。
「可愛いから」
「またそれ?」
「またそれ」
ハンナは笑った。
私は真面目だった。
そして最後。
木材を使う。
ベンチ作りだ。
ただのベンチではない。
背もたれ付き。
両端に装飾付き。
座ると景色が見える位置。
完璧だった。
完成した瞬間。
【クラフトレベルアップ】
【レベル2→3】
【景観ボーナス獲得】
新しい表示が出た。
私は驚く。
景観ボーナス?
そんなものまであるのか。
すると家全体が少し光った。
花壇。
小道。
ベンチ。
家。
全てが一つの景色として認識されたらしい。
「すごい……」
思わず見惚れる。
まだ小さい。
まだ始まりに過ぎない。
それでも。
確かに理想の家へ近づいていた。
その時だった。
後ろから誰かの声が聞こえた。
「なんだこれは」
振り返る。
モルガンだった。
その隣にはグレッグもいる。
二人とも庭を見て固まっていた。
「どうしたんですか?」
私が聞くと。
モルガンは花壇を指差した。
「花を植えたのか?」
「はい」
「なんのために?」
予想通りの質問だった。
私は胸を張る。
「綺麗だからです」
モルガンは頭を抱えた。
グレッグは空を見上げた。
「またそれか」
「またそれです」
私が答えると。
ハンナだけが大きく頷いた。
「綺麗!」
私は嬉しくなった。
理解者が増えた。
するとモルガンが庭全体を見渡しながら呟く。
「不思議だな」
「?」
「なんだか帰りたくなる場所に見える」
その言葉に私は少し驚いた。
それだ。
まさにそれだった。
私が作りたかったのは。
住むだけの場所じゃない。
帰りたくなる場所。
落ち着く場所。
幸せになれる場所。
私は庭を見つめながら微笑んだ。
知らなかった。
この小さな花壇が。
やがて王国中の街づくりを変える最初の一歩になることを。
そして。
遠くの街道から。
一人の旅人がこちらへ向かっていることを。
後にリリアの人生を大きく変えることになる青年――アルトが。
まだ誰も、その存在を知らなかった。




