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『みんな作れるのに誰も作らないので、元ミニチュアコレクターが本気を出したら国ができました』  作者: eccen.
第4章 癒やしのスパリゾート

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第37話 星降るスパの夜

「夜の庭園散策、本日から始めます!」


夕暮れ。


リリアの声がスパリゾートに響いた。


空は茜色に染まり、山の向こうへ太陽がゆっくり沈んでいく。


昼間とは違う、静かな時間が始まろうとしていた。


「今日は夜だけの景色を楽しんでもらいます。」


宿泊客たちは興味深そうに集まる。


「夜も楽しめるのか。」


「どんなことをするんだ?」


リリアは微笑んだ。


「まずは灯りを見てください。」


クラフト。


小さくつぶやくと、遊歩道に並ぶ街灯が一つずつ灯り始めた。


淡い琥珀色の光。


まぶしすぎず、暗すぎない。


花壇を優しく照らし、木々の影を美しく映し出す。


池の周りには小さなランタンが並び、水面には無数の光が揺れていた。


「わあ……。」


子どもたちが目を輝かせる。


「昼と全然違う!」


フィオナが嬉しそうに言う。


「夜に咲く花も見頃ですよ。」


昼には閉じていた白い花が、月明かりを浴びてゆっくり開き始める。


甘く優しい香りが風に乗って広がった。


「いい香り……。」


宿泊客の女性が目を閉じる。


「香りまで変わるなんて。」


リリアはにっこり笑う。


「夜だけのお楽しみです。」


その後、一行は庭園をゆっくり歩き始めた。


急ぐ人はいない。


誰も大きな声を出さない。


自然と歩幅がゆっくりになる。


木漏れ日ではなく、月明かり。


鳥の声ではなく、虫たちの小さな音色。


昼間とは違う自然の表情が、訪れた人々を迎えていた。


池の前まで来ると、宿泊客の一人が驚きの声を上げた。


「魚が光ってる!」


池では小さな青い魚が泳いでいた。


魔力を含んだ鱗が月の光を反射し、まるで星が水の中を泳いでいるように見える。


「きれい……。」


リリアも思わず見入った。


「これは予定になかったんだけど。」


アルトが笑う。


「自然からの贈り物だな。」


「うん。」


「こういう偶然って好き。」


二人はしばらく池を眺めていた。


その時だった。


「失礼。」


後ろから一人の女性が声をかけてきた。


昼間から滞在している旅人だった。


フードをかぶり、質素な服を着ている。


「この庭園、とても素敵でした。」


「ありがとうございます!」


リリアは笑顔で頭を下げる。


「特に、何もしなくても幸せになれる場所という考え方が好きです。」


「そう言っていただけると嬉しいです。」


女性は少しだけ微笑み、空を見上げた。


「王都では、空を見上げる時間もありませんから。」


その言葉に、リリアは少し驚く。


「毎日忙しいんですか?」


「ええ。」


「立場上、ゆっくり歩くことも難しくて。」


リリアは少し考えたあと、庭園の奥を指差した。


「あそこ。」


「大きな木の下のベンチ。」


「私のお気に入りなんです。」


「誰も来ない時間だと、星がすごくきれいですよ。」


女性は嬉しそうに微笑んだ。


「ありがとうございます。」


静かに頭を下げ、その場所へ歩いていく。


その姿を見送ったアルトは、小さく息をついた。


「知り合い?」


リリアが尋ねる。


「……いや。」


「たぶん、旅が好きな人なんだろう。」


少しだけ視線を逸らすアルト。


もちろん嘘だった。


あの女性は妹、第一王女セレスである。


だが今は、まだ秘密だ。


夜も更け、宿泊客たちは露天スパへ向かう。


昼とは違い、湯気の向こうには満天の星空が広がっていた。


「こんな景色……。」


「生まれて初めて見た。」


誰かが静かにつぶやく。


その夜、一冊の宿帳には、たくさんの感想が書き込まれた。


『景色に涙が出ました。』


『また家族と来たいです。』


『人生で一番ゆっくり眠れました。』


『ここは宿ではありません。心が帰る場所です。』


翌朝。


受付係のエマが慌てて走ってきた。


「リリアさん!」


「どうしたの?」


「王都から追加の予約が止まりません!」


「それだけじゃありません!」


エマは一通の封筒を差し出した。


封蝋には王家の紋章。


リリアは首をかしげる。


「また王都から?」


封を開く。


中には一枚の招待状が入っていた。


**『王都王城へお越しください。』**


**『国王陛下が、あなたに直接お会いしたいと望まれています。』**


リリアは固まった。


「…………。」


数秒後。


「えぇぇぇぇぇっ!?」


山中に、大きな叫び声が響き渡る。


アルトは額に手を当て、苦笑した。


「……とうとう、この日が来たか。」


リリアの知らないところで、運命の歯車はゆっくりと回り始めていた。


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