第33話 四季の庭園露天スパ
「今日は露天スパを作るよ!」
翌朝。
リリアは誰よりも早く現場へやって来た。
職人たちも次々と集まってくる。
「待ってました!」
「温泉に入れる日が来たか!」
「本当に湯に浸かるのか?」
まだ半信半疑の者も多い。
この世界では温泉は珍しい。
正確には、お湯に体を沈めて楽しむ文化が存在していなかった。
せいぜい湯で体を拭く程度である。
だからこそ、リリアの計画は常識外れだった。
「絶対気に入るから!」
リリアは胸を張った。
そして谷の地図を広げる。
「まず大事なのは景色。」
「お湯じゃないのか?」
グレッグが笑う。
「景色!」
リリアは即答した。
「お湯はもちろん大事。」
「でも、お湯だけなら家のお風呂でもいいでしょ?」
職人たちは顔を見合わせる。
確かにその通りだった。
「露天スパはね。」
「空を見る場所なの。」
リリアは谷の奥を指差した。
そこには小さな滝が流れている。
川の音も聞こえる。
山々に囲まれた絶景だ。
「この景色を見ながらお湯に入るの。」
「それが最高なんだよ。」
誰も想像できない。
だがリリアだけは、はっきり完成図が見えていた。
クラフトガイドを開く。
「クラフト!」
光が谷へ走る。
岩が動く。
石が積み上がる。
自然の地形を生かしながら、大きな湯船が形作られていく。
丸く削られた岩。
腰掛けられる縁。
川を見渡せる高さ。
まるで最初からそこに存在していたような自然な造形だった。
「すごい……。」
王都の技師たちも息を呑む。
「人工物に見えない。」
「自然の一部みたいだ。」
リリアは満足そうに頷いた。
「それが理想。」
「作ったことが分からないくらい自然がいい。」
昼過ぎ。
湯船の形が完成する。
次は庭園だ。
フィオナが待ってましたとばかりに前へ出た。
「お花ですね!」
「うん!」
リリアは笑顔になる。
「今回は四季の庭園にする。」
春には桜色の花。
夏には青い花畑。
秋には紅葉。
冬には白銀の花。
一年中違う景色を楽しめる庭園。
フィオナは興奮で頬を赤くした。
「最高です!」
二人は夢中で植栽を始めた。
花壇だけではない。
木の配置。
岩の置き方。
小川の流れ。
どこから見ても美しく見えるよう計算していく。
その様子を見ていたアルトがぽつりと言った。
「まるで絵を描いてるみたいだな。」
リリアは手を止める。
「そうかも。」
前世でも同じだった。
ミニチュアを作る時。
家具を置く位置。
植物の高さ。
窓から見える景色。
全部考えるのが好きだった。
今やっていることも変わらない。
違うのはサイズだけだ。
夕方。
最後に温泉を引き込む作業が始まった。
職人たちが見守る中、リリアは源泉へ手をかざす。
「お願い。」
クラフトスキルが発動する。
光る水路が地中を走る。
次の瞬間。
ザアアアアア―――!
湯船へ勢いよく温泉が流れ込んだ。
白い湯気が立ち上る。
温かな香りが辺りを包む。
「おおおお!」
歓声が上がる。
湯船はあっという間に満たされた。
黄金色に輝く温泉。
夕日を映す水面。
揺れる木々。
流れる川。
誰もが見とれていた。
「完成……。」
リリアは静かにつぶやく。
クラフトガイドが輝く。
【施設完成】
**四季の庭園露天スパ**
【評価】
★★★★★
【効果】
・疲労回復速度大幅上昇
・精神安定効果
・観光価値大幅上昇
・住民幸福度上昇
そして新しい通知。
【王国初の露天スパ認定】
【歴史的建造物候補】
「やった!」
リリアは思わず飛び上がる。
だが、その時だった。
グレッグが湯船を見ながら言う。
「で?」
「どうやって使うんだ?」
全員が固まる。
そうだった。
完成したが、誰も入ったことがない。
この世界に温泉文化は存在しないのだ。
リリアはにやりと笑った。
「仕方ないなぁ。」
「じゃあ――」
「私が見本を見せます!」
その言葉に職人たちはざわめく。
アルトは嫌な予感しかしなかった。
「待て。」
「何か嫌な予感がする。」
「大丈夫だって!」
リリアは満面の笑みを浮かべる。
「次回。」
「異世界初の温泉体験会です!」
職人たちは盛り上がる。
しかしアルトだけは頭を抱えていた。
なぜならリリアが何かを思いついた時、大抵の場合、周囲を巻き込む大騒動になるからだった。
そして、その予感は見事に当たることになる。




