第29話 王都からの招待状
翌朝。
「リリアさーん!」
宿屋の前にいたミアが、大きく手を振りながら駆け寄ってきた。
「王都からお手紙です!」
「え?」
リリアは首をかしげながら封筒を受け取る。
厚手の白い封筒。
封蝋には王国の紋章が押されていた。
「すごい……。」
住民たちも自然と集まってくる。
「王都から正式な手紙なんて初めて見た。」
「早く開けて!」
リリアは緊張しながら封を切った。
中には上質な羊皮紙が一枚。
丁寧な文字でこう書かれていた。
『王都クラフト博覧会へご招待申し上げます。
貴殿の街づくりは王国中で高く評価されております。
ぜひ、その技術をご披露ください。』
リリアは何度も読み返した。
「博覧会……?」
アルトが横からのぞき込む。
「王国最大の催しだ。」
「毎年、優秀な職人や建築家が作品を展示する。」
「えっ!」
リリアは目を丸くした。
「そんなすごい場所に私が?」
「当然だろ。」
アルトは笑う。
「もう君の街は王都でも有名なんだから。」
「でも……。」
リリアは少し不安そうにうつむく。
「私なんかが行ってもいいのかな。」
その言葉に、グレッグが大きく笑った。
「何言ってる。」
「俺たちの街を作ったのはリリアだぞ。」
「自信を持て!」
ミアも頷く。
「私たちも応援しています!」
フィオナは花束を抱えながら微笑む。
「きっと王都の人も驚きます。」
住民たちの言葉に、リリアの表情が少しずつ明るくなっていく。
「……うん。」
「行ってみようかな。」
その瞬間。
「もちろんです。」
澄んだ声が聞こえた。
振り向くと、昨夜祭りに来ていた金髪の女性が立っていた。
旅装束のままだが、どこか気品がある。
「おはようございます。」
「おはようございます!」
リリアは笑顔で挨拶を返す。
「昨日は楽しんでいただけましたか?」
「ええ。」
女性は優しく微笑む。
「忘れられない夜になりました。」
「それはよかった!」
女性は広場を見渡した。
朝から掃除をする人。
花壇に水をあげる人。
笑顔で挨拶を交わす子どもたち。
「この街は……。」
「建物が美しいだけではありませんね。」
リリアは少し照れくさそうに笑う。
「みんながこの街を好きだからだと思います。」
その答えを聞き、女性は嬉しそうに頷いた。
「ますます気に入りました。」
その様子を少し離れた場所から見ていたアルトは、小さくため息をつく。
「楽しそうだな。」
「そうですね。」
レオン領主も苦笑した。
「ですが、そろそろ限界かもしれません。」
「……分かってる。」
アルトの視線は妹へ向けられていた。
正体を隠したままでは、いつか必ず無理が出る。
だが、今だけは。
もう少しだけ、この穏やかな時間を守りたかった。
その日の午後。
リリアは工房通りを歩いていた。
「王都に持っていく作品かぁ。」
建物をそのまま持っていくことはできない。
何を展示すれば、この街の魅力が伝わるだろう。
「うーん……。」
考え込んでいると、図書館から子どもたちの笑い声が聞こえてきた。
温室庭園では花を眺めながらお茶を飲む夫婦。
工房通りでは職人が楽しそうに作品を作っている。
噴水では子どもたちが水遊びをしていた。
その光景を見た瞬間、リリアの頭にひらめきが走る。
「そうだ!」
「建物じゃない!」
アルトが振り返る。
「何か思いついたか?」
「うん!」
リリアは満面の笑みを浮かべた。
「街を持っていこう!」
「……は?」
アルトが固まる。
グレッグも目をぱちぱちさせる。
「街を?」
「どうやって?」
リリアは胸を張った。
「私、前世でミニチュアが大好きだったの。」
「だから――」
「この街を、そのまま小さく作ればいいんだよ!」
その場が静まり返る。
数秒後。
アルトが思わず笑い出した。
「ははは!」
「君らしい!」
グレッグも豪快に笑う。
「なるほど!」
「街を見せられないなら、街を作ればいいのか!」
リリアは力強く頷く。
「うん!」
「パン屋も!」
「時計塔も!」
「温室庭園も!」
「全部、小さく作る!」
クラフトガイドがまばゆい光を放つ。
【新クラフト解放】
**ミニチュア建築**
【条件】
・前世の記憶との共鳴 達成
・街発展度250以上 達成
・クラフトへの情熱 最大
リリアは思わず笑顔になる。
「やっと来た。」
「これが、私が一番得意なクラフト。」
前世で何百時間も夢中になった、小さな世界づくり。
その経験が、この異世界で初めて本当の力として花開こうとしていた。




