第28話 はじめての夜祭り
「夜祭りまで、あと三日!」
リリアが広場で宣言すると、住民たちから大きな歓声が上がった。
「よーし!」
「準備するぞ!」
「今度は何を作るんだ?」
リリアはにっこり笑って、大きな設計図を広げる。
「屋台通り!」
そこには広場をぐるりと囲むように、たくさんの屋台が描かれていた。
パン屋台。
串焼き屋台。
焼き菓子屋台。
花飾り屋台。
木工体験屋台。
子ども向けの輪投げや的当てまである。
「お祭りって、食べるだけじゃないの。」
「歩いて、見て、遊んで、笑うもの!」
住民たちは設計図を見ながら目を輝かせた。
「面白そう!」
「全部やろう!」
グレッグは腕まくりをする。
「屋台なら俺に任せろ!」
ミアも元気よく手を挙げた。
「限定パンを作ります!」
ソフィアは笑顔で言う。
「お祭り限定の髪飾りを作りたいです!」
フィオナも負けていない。
「夜に光る花を飾ります!」
リリアは満足そうに頷いた。
「みんな、よろしくね!」
建設は驚くほど早かった。
住民たちは、自分から考えて動いている。
屋台の高さを揃えたり。
通路を広くしたり。
ベンチを増やしたり。
以前なら全部リリアが考えていたことを、今ではみんなが自然にやってくれる。
アルトが感心したように言う。
「本当に変わったな。」
「うん。」
リリアは嬉しそうに笑った。
「みんなが街づくりを楽しんでくれてる。」
「それが一番嬉しい。」
祭り当日。
夕日が沈み始めるころ、街路灯に明かりがともる。
屋台にも小さなランタンが灯され、広場全体が黄金色に包まれた。
「始まるぞ!」
時計塔の鐘が鳴り響く。
ゴーン……。
その音を合図に、夜祭りが始まった。
「いらっしゃいませ!」
「焼きたてですよ!」
「花飾りはいかがですか!」
子どもたちは輪投げに夢中になり、大人たちは屋台を見て歩く。
旅人たちも楽しそうに笑っていた。
「こんな祭りは初めてだ。」
「昼も夜も楽しめる街なんて聞いたことがない。」
「宿をもう一泊延ばそう。」
その言葉に宿屋のミアは大喜びだった。
「ありがとうございます!」
温室庭園では、フィオナが育てた夜咲きの花が幻想的に輝いている。
花びらが月明かりを受けて青白く光り、昼間とはまったく違う景色を作り出していた。
「きれい……。」
リリアも思わず見とれてしまう。
その時だった。
街の入口から一台の質素な馬車が入ってきた。
豪華な装飾はない。
護衛も二人だけ。
旅人にも見える。
だがアルトの表情が変わった。
「どうしたの?」
「……いや。」
アルトは視線を馬車へ向けたまま、小さく息をつく。
馬車から降りてきたのは、一人の若い女性だった。
二十歳くらい。
淡い金色の髪。
青い瞳。
旅装束を着ているが、立ち居振る舞いには気品がある。
女性は街並みを見るなり、小さく息を呑んだ。
「本当に……美しい。」
その声は感動に満ちていた。
女性は屋台を一つひとつ見て回る。
パンを買い。
花飾りを眺め。
温室庭園では立ち止まってしばらく花を見つめていた。
リリアは声をかける。
「こんばんは!」
「あ……こんばんは。」
女性は柔らかく微笑んだ。
「初めて来られたんですか?」
「はい。」
「噂を聞いて。」
「楽しんでいただけていますか?」
「ええ。」
女性は嬉しそうに頷く。
「こんな街が本当にあるなんて思いませんでした。」
「ありがとうございます!」
リリアは満面の笑みを浮かべた。
女性は少し迷ったあと、静かに尋ねる。
「この街を作ったのは、あなたですか?」
「最初は私ですけど、今はみんなで作っています。」
リリアは住民たちを見渡した。
「一人じゃここまでできませんでした。」
その答えを聞いた女性は、優しく微笑んだ。
「素敵な考え方ですね。」
少し離れた場所では、アルトがその様子を複雑な表情で見つめていた。
「アルト。」
後ろからレオン領主が静かに声をかける。
「あの方が来られたことは想定外ですか?」
「ああ……。」
アルトは苦笑する。
「予定よりずっと早い。」
「ですが、まだリリアさんは気付いていません。」
「それでいい。」
アルトは小さく頷いた。
「今は、この街を楽しんでほしい。」
祭りは夜遅くまで続いた。
笑い声。
音楽。
子どもたちの歓声。
街中が幸せな空気に包まれている。
クラフトガイドが静かに光る。
【夜祭り 大成功】
【街発展度 280】
【観光都市認定】
【新施設解放】
・音楽堂
・美術館
・展望塔
そして最後に、新たな通知が現れた。
【王都より正式な招待状が届いています】
リリアは首を傾げる。
「王都?」
物語は、いよいよ王国の中心へとつながり始める。
そして、祭りを楽しんでいた金髪の女性こそ、アルトの妹であり王国第一王女であることを、リリアはまだ知らなかった。




