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『みんな作れるのに誰も作らないので、元ミニチュアコレクターが本気を出したら国ができました』  作者: eccen.
第3章 理想の街へ

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第21話 王都視察団

十日後。


朝から街は慌ただしかった。


「花壇は大丈夫?」


「はい!」


「パンは焼けた?」


「もうすぐです!」


「噴水の掃除は?」


「終わりました!」


広場では村人……いや、もう街の住民たちが忙しく動き回っていた。


私は時計塔を見上げる。


「いよいよだね。」


隣ではアルトが腕を組んでいる。


「緊張してるか?」


「少しだけ。」


本当はかなり緊張していた。


王都から視察団が来る。


しかも身分の高い人たち。


前世でも、こんな大勢を迎える経験なんてなかった。


すると鐘が鳴った。


ゴーン……。


街の入口から、一列の馬車が姿を現す。


一台。


二台。


三台。


全部で六台。


後ろには王国騎士団までいる。


住民たちが息を呑んだ。


「すごい……。」


馬車は広場で止まる。


最初に降りてきたのは、以前訪れた視察官エドガーだった。


「お久しぶりです、リリアさん。」


「エドガーさん!」


再会に思わず笑顔になる。


続いて、年配の女性。


王都商業局の責任者らしい。


さらに建築技師。


庭園管理官。


料理研究官。


次々と専門家が降りてくる。


「本当に視察なんだ……。」


私は思わず呟いた。


最後の馬車だけは様子が違った。


白と金で装飾された豪華な馬車。


護衛の数も多い。


アルトの表情が一瞬だけ固くなる。


「どうしたの?」


「……いや。」


そう答えたものの、視線は馬車から離れない。


扉がゆっくり開く。


降りてきたのは五十代ほどの男性だった。


上品な服装。


穏やかな笑顔。


だが、その場にいる全員が自然と頭を下げてしまうほどの威厳がある。


レオン領主が深く一礼した。


「ようこそお越しくださいました。」


男性は優しく頷く。


「案内を頼みます。」


私は小声でアルトに聞いた。


「あの人、すごい人?」


「……そうだな。」


「王様?」


アルトがむせた。


「な、なんでそう思う?」


「なんとなく。」


アルトは額に手を当てた。


「勘が鋭すぎる……。」


私は首を傾げる。


冗談で言っただけなのに。


実際には王様ではないだろう。


たぶん。


案内が始まった。


最初はパン屋。


ミアが焼きたてのパンを並べる。


年配の男性は一口食べると、ゆっくり微笑んだ。


「優しい味だ。」


「ありがとうございます!」


次は雑貨屋。


ソフィアが商品を紹介する。


「この街へ来てから作った新作です。」


「ほう。」


男性は木彫りの小鳥を手に取る。


「温かみがある。」


「はい。」


「この街の雰囲気によく合っています。」


ソフィアは嬉しそうに頭を下げた。


花屋ではフィオナが季節の花を説明する。


「春にはこちら。」


「夏はこちらが満開になります。」


男性は街路樹まで見上げながら感心していた。


「街全体で一つの庭園のようだ。」


私は照れ笑いを浮かべる。


「そうなったらいいなと思って作りました。」


「思って、作れるものではありませんよ。」


その言葉に私は少し驚いた。


この人は建物だけじゃなく、街全体を見ている。


広場へ戻ると、男性は噴水の前で立ち止まった。


子どもたちが水遊びをしている。


近くのベンチでは旅人が休憩している。


パンを食べながら談笑する商人。


その様子を見つめ、男性は静かに笑った。


「いい街だ。」


たった三文字。


それだけなのに胸が熱くなった。


その時だった。


「父……。」


小さな声が聞こえた。


私は振り向く。


アルトだった。


しまった、という表情を浮かべている。


男性も一瞬だけアルトを見る。


ほんの一瞬。


だが、優しく微笑んだ。


「旅は楽しんでいるようだな。」


「……はい。」


短い会話。


それだけで終わった。


私は首を傾げる。


「知り合い?」


アルトは慌てて笑った。


「昔、少し。」


「そうなんだ。」


私は深く考えなかった。


でもレオン領主だけは、そのやり取りを見て目を丸くしていた。


『父上』


確かにそう聞こえた。


だが、口には出さない。


今はまだ、その時ではない。


夕方。


視察団は宿屋へ宿泊することになった。


私は家へ戻り、大きく息を吐く。


「終わったぁ。」


ベッドへ倒れ込む。


緊張しっぱなしだった。


するとクラフトガイドが光る。


【王都視察 進行中】


【評価 非常に良好】


【明日、重要な提案があります】


「提案?」


私は首を傾げる。


一方その頃、宿屋の一室では。


年配の男性が窓の外の街を眺めながら静かに呟いていた。


「アルト。」


「はい。」


そこには旅人ではなく、まっすぐ背筋を伸ばしたアルトの姿があった。


「ずいぶん面白い娘と出会ったな。」


アルトは苦笑する。


「ええ。」


「予想外でした。」


男性は穏やかに笑う。


「……王都へ連れて帰る気はない。」


「この街でこそ、あの娘の力は輝く。」


アルトはほっとしたように息をついた。


しかし、その言葉の続きは思いもよらないものだった。


「だが。」


「いずれ、お前の正体は話さねばならん。」


アルトは静かに目を閉じた。


その日が、少しずつ近づいていた。

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