表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『みんな作れるのに誰も作らないので、元ミニチュアコレクターが本気を出したら国ができました』  作者: eccen.
第2章 街づくり開始

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
16/25

第16話 王都からの視察官

「……報告以上だ。」


王国の紋章を胸につけた初老の男性は、静かに街を見渡していた。


パン屋。


雑貨屋。


花屋。


整えられた石畳。


色鮮やかな花壇。


まだ小さな街。


それでも、どこか温かさを感じる景色だった。


「どなたでしょう?」


モルガンが前に出る。


男性は丁寧に一礼した。


「失礼しました。」


「私は王都都市整備局の視察官、エドガーと申します。」


王都。


その言葉だけで村人たちがざわめいた。


「王都から!?」


「こんな場所に?」


エドガーは穏やかに笑う。


「最近、この地域で奇妙な報告が相次いでいましてね。」


「奇妙?」


私が首を傾げると、エドガーは懐から数枚の報告書を取り出した。


「『森の中に美しい家を建てた少女』」


一枚めくる。


「『花壇を作ることで人が集まり始めた村』」


もう一枚。


「『パン屋に行列ができる』」


さらに一枚。


「『雑貨屋目当てに旅人が立ち寄るようになった』」


私は苦笑した。


「全部、本当ですね。」


「ええ。」


エドガーも微笑む。


「だから自分の目で確かめに来ました。」




視察が始まった。


最初はパン屋。


「いい香りですね。」


「焼きたてです!」


ミアが焼き上げたパンを差し出す。


エドガーは一口食べる。


ゆっくり噛みしめる。


「……美味しい。」


「ありがとうございます!」


ミアは嬉しそうだった。


次は雑貨屋。


ソフィアが商品を説明する。


「こちらは木彫りの小鳥です。」


「こちらは刺繍入りの布になります。」


エドガーは棚の配置まで見ていた。


「見やすい。」


「商品を自然と手に取りたくなる。」


ソフィアは驚いて私を見る。


私は照れながら肩をすくめた。


最後は花屋。


フィオナが育てた花を見て、エドガーは目を細める。


「この街には季節がありますね。」


その一言が印象的だった。


私は思わず尋ねる。


「季節?」


「ええ。」


エドガーは花壇を見つめながら答える。


「普通の村は一年中同じ景色です。」


「ですが、この街は違う。」


「春は花。」


「夏は木陰。」


「秋は紅葉。」


「冬は飾り付け。」


「そんな未来まで想像できます。」


私は胸が熱くなった。


そこまで考えてくれる人がいた。


「ありがとうございます。」


自然と頭が下がった。




昼食は広場で食べることになった。


パン屋のパン。


村で採れた野菜。


スープ。


皆でテーブルを囲む。


エドガーは驚いていた。


「村人全員で食事を?」


モルガンが笑う。


「最近は毎日のようにこうなんです。」


「街づくりを始めてから、自然と集まるようになりまして。」


エドガーは周囲を見回した。


笑い声。


走り回る子ども。


談笑する大人。


その光景を見て、小さく呟く。


「これも街づくり……。」


私は首を傾げる。


「建物だけじゃありません。」


「人も街の一部ですから。」


エドガーは目を見開いた。


アルトが静かに微笑む。


「その考え方は珍しい。」


私は笑う。


「前からそう思ってました。」


アルトは少しだけ目を伏せた。


「……だから人が集まるのか。」


夕方。


視察を終えたエドガーは、私たちを広場へ集めた。


「リリアさん。」


「はい。」


「王都から正式に依頼があります。」


村人たちが息を呑む。


「依頼?」


「この街を、モデルケースとして記録させていただきたい。」


「モデルケース?」


「はい。」


エドガーは真剣な表情になる。


「王国には数百の村があります。」


「ですが、人口は減る一方です。」


「若者は王都へ行き。」


「村には活気がありません。」


私は静かに聞いていた。


「しかし、この街は違う。」


「人が集まり。」


「店ができ。」


「笑顔が増えている。」


「その理由を王国は知りたいのです。」


私は少し考えた。


そして答えた。


「特別なことはしてませんよ。」


「みんなが帰りたくなる場所を作ってるだけです。」


エドガーは静かに笑った。


「それが一番難しいのです。」




その夜。


視察官を見送ったあと。


私は家の前のベンチに座っていた。


アルトが隣へ座る。


「疲れた?」


「少しだけ。」


「でも楽しかった。」


夜風が心地よい。


花の香りが漂う。


遠くからパンを焼く香りもする。


アルトがぽつりと呟く。


「王都は放っておかないだろうな。」


「そうなの?」


「ああ。」


「君が思っている以上に、この街は珍しい。」


私は苦笑した。


「私は好きなものを作ってるだけなんだけど。」


アルトは空を見上げる。


「だからこそ価値がある。」


その言葉を聞いた瞬間。


クラフトガイドが光り始めた。


【街発展度 70】


【新機能解放】


住民募集掲示板


商店区画設定


観光客受け入れ機能


私は目を丸くする。


「観光客?」


新しい時代が始まる。


この街はもう、小さな村ではない。


人が訪れ。


人が暮らし。


人が笑う街へ。


そして王都では。


エドガーが提出した報告書を、一人の人物が静かに読み始めていた。


その人物の机には、王家だけが使える金色の紋章が刻まれている。


「……リリア、か。」


その人物は小さく微笑んだ。


「面白い。」


その声は静かな執務室に溶けていった。


一方、その人物の正体を知るアルトは、遠く離れた街で苦笑していた。


「父上まで興味を持ったか……。」


誰にも聞こえないほど小さなその呟きは、夜風に乗って消えていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ