第11話 最初のお店
三日後。
私は朝から悩んでいた。
家の机の上にはクラフトガイドが広げられている。
そのページに表示されているのは――
【パン屋】
【雑貨店】
【花屋】
【宿屋】
新しく解放された建物一覧だった。
「どれから作ろう……」
幸せな悩みである。
すると向かい側に座っていたハンナが言った。
「全部!」
「無理」
即答だった。
材料が足りない。
人手も足りない。
お金もない。
今の村はまだ小さいのだ。
順番が重要である。
その時。
玄関の扉が開いた。
「おはよう」
アルトだった。
最近は普通に出入りしている。
もはや半同居人である。
本人は旅人を名乗っているが。
旅をしている様子はない。
「アルト」
「なんだ?」
「お店作るなら何が必要だと思う?」
アルトは少し考えた。
そして。
「パン屋」
と答えた。
私は頷く。
同意見だった。
食べ物は強い。
人を集める。
滞在時間を増やす。
村の魅力にもなる。
「決まりね」
その瞬間。
クラフトガイドが光った。
【新規クエスト】
【パン屋を建設しよう】
報酬
【商業機能解放】
【来訪者増加】
私は思わず笑う。
やっぱり最初はパン屋だったらしい。
早速モルガンを呼んだ。
村長は話を聞くと驚いた。
「店を建てるのか?」
「うん」
「誰がやる?」
「それはこれから探す」
私は当然のように答える。
建物だけでは意味がない。
働く人が必要だ。
するとモルガンが腕を組んだ。
「一人いるな」
「本当?」
「パン作りが好きな娘だ」
それを聞いた瞬間。
私は立ち上がった。
「会いたい!」
数十分後。
私達は村の端にある小さな家を訪れていた。
そこにいたのは赤毛の少女だった。
年齢は十七歳くらい。
エプロン姿。
少し天然そうな雰囲気。
「ミアだ」
モルガンが紹介する。
少女はぺこりと頭を下げた。
「ミアです」
「リリアです」
挨拶を交わす。
すると。
ふわり。
良い匂いがした。
私は反射的に振り向く。
テーブルの上。
そこに焼きたてのパンが並んでいた。
「え?」
思わず近寄る。
丸パン。
木の実パン。
少し焦げたパン。
色々ある。
「食べます?」
ミアが聞いた。
私は即答した。
「食べる!」
一口。
もぐもぐ。
そして。
固まる。
美味しい。
ものすごく美味しい。
前世の高級パンほどではない。
だが。
この世界で食べた物の中では圧倒的だった。
「すごい!」
私は叫んだ。
ミアは照れたように笑う。
「本当?」
「本当!」
私は決めた。
この人だ。
絶対に必要だ。
「パン屋やらない?」
ミアは固まった。
「え?」
「お店」
「お店!?」
「私が建物作るから」
「え?」
「パン売ろう」
ミアは完全に混乱していた。
無理もない。
この世界では店を持つ人は少ない。
特に小さな村では。
だが。
私は本気だった。
このパンなら絶対売れる。
その時。
アルトが一つのパンを食べた。
もぐもぐ。
数秒。
そして。
「美味しい」
とだけ言った。
普段あまり感情を出さないアルトが褒めた。
それだけで説得力があった。
ミアは顔を赤くする。
「本当に?」
「ああ」
アルトは頷いた。
「店を出しても問題ないと思う」
私は見逃さなかった。
その言葉。
まるで商業視察でもしているような言い方だった。
やっぱり怪しい。
ものすごく怪しい。
だが今は後回しだ。
私はミアへ向き直る。
「一緒にやろう」
ミアは悩んだ。
数秒。
十数秒。
そして。
小さく頷いた。
「やってみたい」
私は思わず拳を握った。
よし!
第一号店決定である。
帰り道。
私は設計図を描き始めた。
ただのパン屋ではない。
可愛いパン屋だ。
花壇付き。
大きな窓付き。
看板付き。
見ただけで入りたくなるお店。
そんな場所を作る。
ハンナが目を輝かせる。
「また可愛くするの?」
「当然」
アルトが苦笑する。
モルガンが呆れる。
だが私は気にしない。
だって。
せっかく作るのだから。
素敵な方がいいに決まっている。
その日の夕暮れ。
私は丘の上から村を見下ろした。
小さな村。
でも少しずつ変わっている。
家が変わった。
庭ができた。
広場もできた。
そして次はパン屋。
街への第一歩だ。
その時。
クラフトガイドが静かに光る。
【村発展度 15】
【移住希望者 1名】
私は目を見開いた。
移住希望者。
つまり――
この村に住みたい人が現れた。
街づくりは。
もう始まっているのだった。




