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第9話 綱の繊維が語る積み替え
偽札だけでは、夜荷の全体は掴めない。
私は西桟橋で回収した綱の切れ端を並べた。正規の北海綱は塩で白く締まり、表面に細かな貝殻粉が残る。だが夜荷に使われた綱は、王都南区で売られる青染め麻綱だった。
「同じ紐でも、そこまで違うものかい」
マルガレーテが呆れた声を出す。
「違います。しかもこの綱には、港外れの岩場にしか付かない黒藻が絡んでいる」
潮見表と旧航路帳を重ねると、逆流の一刻にだけ小舟が寄れる入り江が一つ浮かび上がる。私はライナーと数名の港夫を連れて、その夜そこへ向かった。
霧の薄い海で待つこと半刻。やがて小舟が現れた。油樽と麦袋を積み、北海灯台港の札をぶら下げているくせに、船腹には王都港の塗り直し跡がある。
「止まりなさい」
ライナーの低い声が響く。逃げようとした小舟は潮へ頭を向けたが、逆流を甘く見ていた。あっけなく岩際へ押し戻される。
捕えた男の懐から出た覚え書きには、こうあった。
『青紐荷は西桟橋ではなく岩入江へ。白手袋の奥様が嫌がるから、王都印は見せるな』
白手袋。セリーヌの姿が頭に浮かぶ。
綱一本、潮一つでも、嘘は声を上げる。
少しずつ、流れの形が見えてきた。




