第8話 義妹からの優雅な寄港案内
王都から届いた招待状は、封を切る前から薄い花香をまとっていた。
封筒にまで香りを染み込ませるのは、セリーヌの癖だ。甘くて軽く、すぐ飛ぶ匂い。けれど今回の手紙には、その下に別の匂いが残っていた。王都港の札庫で使う青染め粉と、油樽を磨く白蝋だ。
「義妹さん、ずいぶんご機嫌だね」
マルガレーテが紙面をのぞく。
内容はこうだった。
『艦隊契約に先立ち、王都港では新しい検印体制のお披露目を兼ねた寄港夜会を開きます。北海で落ち着かれましたなら、お義姉様もぜひお越しくださいませ』
末尾にはヴィクトルの追記があった。
『無駄に意地を張らず戻る気があるなら話をしよう』
私は手紙を閉じた。
「戻れ、ではなく、黙って支えろという意味ですね」
ライナーは暖炉の前で腕を組んだまま言う。
「焼き捨てるなら今だ」
「捨てません。この粉の匂いは残しておきます」
私は封蝋を少し削って香紙へ移した。やはり札庫の青染め粉が混じっている。しかも、その比率は王都で見た偽札の紐と近い。
「セリーヌは札庫へ直接入っています」
「それで十分か」
「まだ足りません。でも、彼女がただ華やかに笑っていただけの令嬢ではない証拠になります」
ライナーは一歩だけ近づいた。
「なら、招待に応じる準備をしろ。今度は向こうが君を呼んだ」
逃げて終わるつもりはない。
呼ばれたなら、私は潮見表と帳面を持って戻る。




