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第7話 灯台倉庫に眠る旧航路帳
灯台の下にある旧倉庫は、長いあいだ閉じられていた。
マルガレーテと一緒に錆びた閂を外すと、塩と古紙の匂いが流れ出る。棚の奥に押し込まれていた木箱を開いた瞬間、私は息をのんだ。
中にあったのは、母ヘレーネの字で書かれた旧航路帳だった。
母は結婚前、商家の航路札を扱っていた。私に札穴の見方と紐の癖を教えてくれたのも母だ。だが、王都へ嫁いでからは海の話をあまりしなくなった。
『灯台港の札は塩をくぐらせてから締めること。乾いた札は必ず誰かが陸で作っている』
頁にはそんな実務の注意がびっしり書かれていた。
最後の方に、もっと短い一文がある。
『王都港が夜荷を別帳へ移し始めた。正札が嘘を運ぶ前に、記録を残す』
私はその文字を指でなぞった。
母は知っていたのだ。王都港が昔から別帳で荷を流していたことを。
「読めるか」
ライナーが背後から問う。
「はい。母の航路帳です。ここに、王都と北海を結ぶ古い抜け航路の印があります」
「なら、その帳面を今の海へ戻そう」
彼の返答に迷いはなかった。
記録は過去を嘆くためではなく、今を正すためにある。
その武器が、ようやく私の手へ戻ってきた。




