第6話 無口な海運伯の朝の潮見表
その翌朝も、私の机の端には新しい潮見表が置かれていた。
今度は簡単な注記つきだ。夜半の外海は逆流が強く、小舟が西桟橋へ寄れるのは一刻だけ。その字を見ただけで、私は昨夜見た新しい繋船柱の錆が頭の中でつながった。
「哀れまれていると思うなら破ればいい」
灯台前で会ったライナーは、そう言った。
「そんなつもりでは」
「なら使え」
私は少しだけ笑ってしまった。
「命令口調なのに、押しつけがましくないんですね」
「王都の役人みたいに恩を着せる趣味はない」
私は潮見表を元に昨夜の潮位を埋め、入港記録と照合した。正規の大型船が入れない時間に、油樽三本と麦袋八つ分の重さだけが西桟橋の板へ残っている。つまり、夜の小舟が使われていた。
「逆流の一刻だけなら、王都からの直送船じゃなく沿岸の積み替え舟です」
「なら、待ち伏せる場所が絞れるな」
その日の午後、私は灯台番たちと一緒に油樽へ新しい封印札をつけた。潮に濡れると色が変わる札だ。もし夜に触れれば、一目でわかる。
「帳面だけじゃなく、札そのものも作れるのか」
若い港夫が驚いた声を出す。
「監査官は、嘘が通らない仕組みを考える仕事でもあります」
王都では見向きもされなかった私の工夫が、ここではちゃんと役に立つ。
夕方、ライナーが短く言った。
「明日も潮見表を置く」
その一言が、妙に胸へ残った。




