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第10話 霧の日の入港印

 北海の霧は、人の都合など待ってくれない。


 その朝も、灯台の半分が消えるほどの濃霧だった。私は新しい入港印の仕組みを試すことにした。潮で色が変わる札と、灯台鐘の時刻記録を組み合わせた二重検印だ。


「霧の日こそ、音と潮を記録にするんです」


 港番たちに説明すると、最初は半信半疑だった。だが正午までの入港船を記録し終えた頃には、誰でも違いがわかるようになった。潮をくぐっていない札は鐘の時刻と合わず、霧にまぎれて入ったつもりの小舟も数字で浮く。


「これなら夜荷も混ぜにくいね」


 マルガレーテが感心したように言う。


 その日の午後、正規の麦と灯台油が久しぶりに港へ届いた。札、樽、綱、帳面。全部が同じ流れを向いている。たったそれだけのことが、こんなにも港の空気を変える。


 ライナーは入港印を見下ろして短く言った。


「港が息をし始めたな」


「まだ始まりです」


「始まれば十分だ。止めなければいい」


 王都では、私はいつも止められる側だった。けれどここでは違う。私の手で仕組みを作り、港の息を整えられる。


 夕方、灯台の灯がいつもより明るく見えた。


 それだけで、明日へ進む理由になった。


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