第4話 錆びた繋船柱と空の倉庫
翌朝、私は一番に救恤倉へ入った。
扉を開けた瞬間、空気が軽すぎるとわかった。本来なら麦粉と麻袋の重い匂いがこもるはずなのに、ここにあるのは乾いた木と塩だけだ。
「帳簿じゃ、三十束残ってることになってる」
マルガレーテが低く言う。
「でも現物は十二束。しかも半分は中身が痩せてる」
私は袋口の札を一枚ずつめくった。番号は合っているように見える。だが札穴の周りに、王都港でしか使わない青染め紐の毛羽が残っていた。
「北海灯台港の札ではありません。王都で差し替えられた後、こちらでもう一度付け替えています」
「そんなことまでわかるのかい」
「灯台港の紐は塩で白く締まります。これは染料で青く見せているだけです」
灯台油庫も同じだった。帳簿上では灯台三十夜分の油があるはずなのに、実際には十五夜分しかない。樽の底に残る匂いは、北海の鯨油ではなく、安い河脂だ。
「灯台を消したい誰かがいる」
私がつぶやくと、ライナーが背後で立ち止まった。
「漂着船狙いの連中は昔からいた。だが、ここまで整った抜き方は珍しい」
繋船柱の錆具合もおかしかった。北波を受ける側だけ異様に新しい。誰かが夜の小船を外側の桟橋へ着け、正規の帳簿に載らない荷の積み替えをしていたのだろう。
私は手帳へ次々と印をつける。
「必要なのは倉庫の再棚卸し、灯台油の封印管理、そして夜間潮位と入港記録の照合です」
「全部やれ」
ライナーは即答した。
「帳面だけの人間じゃないらしい」
その一言で、胸の内側に張りつめていたものが少しだけ緩んだ。
王都では誰も、私の言葉をこんなふうに受け取らなかった。




