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第18話 あなたが届ける最初の潮見表
騒ぎが収まったあと、私は早朝の埠頭へ出た。
王都港の朝は相変わらず整いすぎていて、昔の私ならその上を小さく歩いたはずだった。けれど今は違う。潮の匂いにも、足元の板の軋みにも怯えない。
「ここにいたか」
振り返ると、ライナーがいた。手には、今朝の潮見表がある。
「王都の最初の一枚だ」
受け取ると、紙端に小さな書き足しがあった。『北海帰港、明後日朝が最良』。
「毎朝届けるのが癖になった」
そう言う彼は、相変わらず無表情に近い。けれど声だけが少し違った。
「エミリア。北海へ戻ってきてほしい」
まっすぐな声だった。
「灯台港に必要だ。……俺にも」
胸の奥が温かくなる。
「戻ります」
それから少しだけ笑った。
「だって、あなたが届ける最初の潮見表がない朝なんて、もう落ち着きません」
ライナーの大きな手が、私の肩へそっと触れた。
甘さよりずっと確かな、静かな温度だった。




