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第16話 艦隊契約入札の検印台
王都港の艦隊契約入札は、春の波より騒がしかった。
磨かれた検印台、列を作る商会、潮より香水の強い貴婦人たち。私は北海灯台港から持ち込んだ正札、裏港帳、白い手袋、潮見表を順に並べた。
「お義姉様、お久しぶりですわ」
振り返ると、セリーヌがいた。真珠色のドレスに白い新しい手袋。だが私にはもう、それが上品さの記号には見えない。
ヴィクトルもその隣で、すべて穏便に済ませたいという顔をしていた。
「北海で潮風に当たりすぎて、少しは気が済みまして?」
「ええ。潮は嘘を洗い流してくれますから」
開会の鐘が鳴り、私は検印台の中央へ進んだ。
「北海灯台港からの再建報告です」
まず正札を示し、次に偽札を並べる。穴位置、塩印の深さ、紐の繊維、そして潮をくぐった時刻。違いは誰の目にも明らかだった。
「偽札は王都港から流されました。さらにこの潮見表をご覧ください」
私は王都沖の潮位と裏港帳の積替時刻を重ねた。
「記録上、正規船が出たとされる時刻は、外海が引きすぎて大型船が動けません。動けたのは、岩入江を知る小舟だけです」
ざわめきが広がる。
ヴィクトルが何か言おうとしたが、その前にライナーが私の一歩後ろへ立った。何も言わなくても、私が一人で矢面に立たなくていいように。
瓶や花ではなく、札と潮と帳面が、今や一番雄弁だった。




