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第14話 『本物の令嬢』の白い手袋
王都行きの準備をしていた夜、ヨナスが小さな包みを持ってきた。
「王都港の洗い場で働く女から預かったそうです」
中に入っていたのは、白い手袋だった。上質な布地なのに、指先だけ青い染料と黒い鯨油で汚れている。手首の裏には、セリーヌが好む薄い花香まで残っていた。
「やっぱり」
私は手袋の指先を光にかざす。偽札の穴位置と同じ癖で、親指側の布が強く擦れている。自分で札を切り、紐を通した人間の手だ。
包みに同封されていた小紙には、こう記されていた。
『白い手袋の奥様が、夜更けに札庫へ入り青粉をこぼした。奥様は自分の手が汚れるたび、これを洗わせていた』
継母ベアトリスはよく言っていた。
「やはりセリーヌの方が本物の令嬢らしいわ。笑って、人を立てられるもの」
でも目の前の手袋は違うことを教えている。笑顔の裏で人の荷を盗み、灯台を消しかけた手だ。
私は母の旧航路帳の最後の余白を思い出す。
『本物かどうかは、手を汚さないことではなく、預かった荷から目を逸らさないことだ』
今度王都へ戻る私は、もう比較される側ではない。
私自身の証拠を持って帰る。




