壺の送り先
リリス入りの壺は第六天にやった。私は要らんし。壺の中でやたらと「お前は絶対にあたくしが殺してやる」だの「この程度のことで諦めない」だのと叫んでおったが、面倒なのでスルーした。私が死ぬまでそこにいろ。
ちなみに、あの女の支配地域はすでに別の魔族の管理下になっていたようだ。元々、征服するだけして、統治も何もしない女だったからな……。なんというか、むしろ帰って来ないという事実に礼まで言われる始末だったぞ。
ちなみに、あれが捕まったところでダンテは帰るつもりがなかったようで、せっせと私の世話を焼いている。
「なぜ出て行かないのです……!」
「おや。そんなこと、決まっているではありませんか。世界広しといえど、我が主に足る存在はフェリクス・エルドラド・ドラクルだけであった。それだけのことでございます、小娘」
「フェリクス様!!」
「諦めろ。ダンテはこういう男だ」
「ですが、この悪魔のような男、絶対にわたくしをバカにしています!」
「ヘスティア、これは悪魔のような男ではない。正真正銘悪魔だ。そして、ダンテはこの世にいる私以外の存在をほとんど馬鹿にしているので、それは気にするだけ損だぞ」
むしろ、私のことも馬鹿にしている時があるのではないかと考えている。というか、本当に私を敬愛しているのなら、私の側にいる者たちとあんなにも喧嘩をしたり、虐めたり、追い詰めたりしなかったのではないかと思うのだ。
確かに魔王であるときは役に立ったが、今の生活を送るにあたって、コイツがいると円滑に進む事柄も進まないのではないかと思うと、私も胃が痛い。道満殿によく効く胃薬を調合してもらうべきだろうか。彼も、清明のジジイによるストレスで胃が荒れることが多かったらしく、胃薬の調合が得意中の得意だと聞く。しかし、まだ仕事中だと聞くしな。流石に迷惑か。一応、近日中に戻ってくると聞いているが。
「しかし、ヘスティア。私が居た方があなたにとってもよいのでは?」
「全然よくありません」
「私がいるだけで、まともな人間はフェリクス様にいらぬ依頼をかけなくなりますよ」
その言葉を聞いて、ヘスティアはかなり苦渋の選択を強いられているような顔で「確かに」と絞り出すように口に出した。
確かに、ではない。そしてお前は自分でそれを言うな。
「まぁ、今のこの方は魔王ではありませんので、私も多くを制限するつもりはありませんが」
「あれはあれで楽をさせてもらっていたがな」
「皆、貴方を頼り過ぎなのですよ。自分で解決できることは自力で解決すべきです。というか、そうさせます」
ああ、うん。頼もしいような、余計なことをやらかすという謎の予感があるというか……。
太郎も最近余裕ができたようで戻ってきているし、私まで来るような仕事はないはずだが。あったとしても、三雲から連絡が来るかどうか、というあたりだろう。
そういえば、空条が四国のダンジョンを早速平定したようだったな。やはり、あれは私が何か言うまでもなく強いやつだったな。
「フェリクス様、あのリリスがこのまま大人しく封印されていると思いますか?」
「いや。それは全然思わん。だが、今出てきたところで第六天に食われて終いだろう。ここが日本でなければリリスにも勝ち目はあっただろうが」
土地が悪い。ここにあれを守るものなどないのだから。私を殺しに来ることに執着せずに、もう少し勉強でもしていれば封印されずに済んだだろうに。
「……この国の魔王はそんなに強いのですか?」
「そうだな。この国にいる間限定であれば、私でも苦戦を強いられるだろう」
下手をすると負けるな。この国、なんというか魔境なのだ。意味の分からん独自の神性や魔性が育っていて、ちょっとばかり恐ろしさも感じることがあるぞ。
「それは何とも……お相手してみたいものです」
「私がこの国で暮らす間はやめてくれ」
「移住する際ならばよいのですか?」
「第六天にはコイツ殺してもいいって言っておいた方がいいかもしれんな」
ヘスティアはそんな私の言葉に「まぁ! すぐに伝えておきましょう!」と声を弾ませた。
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
リリスちゃんは「いつか絶対あたくし自身の手であのいけ好かないイケメンを殺してやるわ!」と思っているし、自分の魅了を弾かれたことを本気で悔しがっている。
あの手この手で誘惑しても全く相手にされなかったことでプライドズタズタ。彼女にとってこれは誇りを取り戻すための戦いでもあるらしい。
ダンテは「つまらない誇り(笑)ですよねぇ……」という感想を述べている。




