ダンテという悪魔2
「お久し振りです。我が主」
「そうかしこまることはない。私はもう魔王ではないのだから」
そう言ったものの、悪魔ダンテは微笑みを浮かべて「もったいなきお言葉」というだけである。
以前私の部下であったダンテは、しっかりと遠巻きに見られながらいかにも優しそうな表情で周囲をさりげなく見回している。
「おや、アルテやジーク坊ちゃんはこちらにはいないのですか?」
「アルテはお前のことが嫌いだからなぁ……。ジークはしばらく来ないと言っていた」
「そうですか。それでは、あなたの息子となった方は?」
「そこの赤髪だ。もうすでにお前の悪行については少しばかり聞いているようだ」
「おや。それは残念です」
ちっとも残念そうに見えない口ぶりでダンテはそう言ってクスクス笑っていた。相変わらずそれが絵になる男である。
それにしても、ダンテはなぜ執事を止めたというのに執事服を着ているのだろうか? いや、こればかりは本人の好み故な。私がどうこう言える話ではないだろう。上司ではなく、今はただの友人?であるのだし。
「それより、何やら厄介なものを持ち込んだと聞いているが」
「はい。『憐憫の盃』のことでございますね」
そう。なんか、昔、父より預けられたアーティファクトだ。
魔王となるのだから、この程度管理して当然という言い分であったな。
「これは……あれだろう? 死者を蘇生させるとか、どんな病でも治すとかいろんな逸話があるが、元は悪魔の宝物だったという……」
「そうですよ、我が主。それを取り返しに来た私を打ち負かして、屈服させ、服従させたのがフェリクス様ですからね」
「当時は魔王をやっていて、そんなものが出回るのが面倒であったからそうしたが……もう私に責任はないしな」
厄介な代物など、持たないに限る。
効果だけ見れば奇跡の品だが、蘇生させた死体には魂が宿らず生きる屍と化し、不治の病を治すためには生贄が必要だというかなり厄介な代物だ。困るのは、対価と引き換えに、『願い』が叶ってしまうところなのだ。そんなもんのために被害者を増やしてどうするのだ、と私は思うわけだが、世の中にはそれでも願いを叶えたいと願う者が存在してしまうのだ。
まぁ、今となればわからなくはないさ。
ラウルを見て、それから溜息を吐く。
親としては子どもが死に近づいたならば、自分の全てを差し出してでもそこから抜け出させてやりたいと願わずにはいられんからな。
そういう意味でも、私はもうこれの管理者に相応しくないだろうな。
「これを、まぁ……返して欲しがっていた方に返そうとも思ったのですが、執念深いでしょう? あの方」
「そうなのか? 一回倒してから見ていないが」
「あなたが倒した後、かなり衰弱していたので、アルテさんや客人が適当に追い払っていましたよ」
まぁ、それならばよいが。
「今回も人間を焚きつけたのはあの方だったようですし、返すと絶対に復讐しに来て碌な事をしないだろうなと思ったので、これを持って馳せ参じた、という訳です」
「それは……そうか」
確かにやりそうである。
前回は翼と四肢を捥ぐに留めてやったが、子どもたちになにかされたら冷静でいられる自信はないな。
「そういうことですので、ぜひもう一度雇っていただきたく」
「私はいいのだが、アルテが嫌がるので無理だな」
「猫など放っておけばよいのでは? あれに言うことを聞かせるのは得意ですよ」
「やめろ」
あ。この目は絶対居座るつもりだな。コイツ。
いつも読んでいただき、ありがとうございます。




