引きこもり希望
ヘスティアを紹介し、連絡を取ってもらい、面接のアポイントが取れたため、私は久しぶりに何の気兼ねもなくダラダラしていた。ダンテが「だらしないですよ」と溜息交じりに言ってきたが、本来はこれこそが正しいのだ。何が楽しくて引退後の私があくせく働かなければならないのか。若いのが働け。
「まぁ、フェリクスってなんやかんや働いてますからねぇ……。頼られてるっつーか」
「良いように利用されているというなら、私が暴れるのもやぶさかではないのですが」
「「絶対にやるな」」
私とラウルの言葉に、ダンテは「ふふ」と笑った。笑いごとではない。本当にやるな。私は割とちゃんと報酬をもらって仕事をしている。
「そもそもの問題として、個人的には使われる方が楽だな」
魔王の時は本当に辛かった。王に休日などない。民のための滅私奉公者が王という存在だ。まぁ、私個人としてはやりきったが。
その国はもう無い。そして、滅ぼした連中も憐憫の盃の効果で死んでいるという……。なぜそのタイミングで盃を回収しなかったのか。
ダンテを見ると、「どうかしましたか、我が主?」と何を考えているかわからない笑みを浮かべていた。
こいつがなぁ、暗躍していた気はするなぁ。
「そういえば、もうすぐ春休みだな。学園への出勤も無くなるし、確か新作のゲームが出る……。ふむ! 引きこもるにはよいな」
協会からの依頼は断ってもよいし、第六天が何も言って来ないことだけを祈るか。
子どもたちも全員休みだから、少しばかりどこかに連れて行ってやる必要があるかもしれんが、そこまでの負担はないだろう。そろそろ道満殿も日本に戻ってくるというし、豆太はそちらと行動する可能性が高い。
「まぁ、千明先輩ももう補講の心配がいるほどの点数取ってないし、見張りつけてまで勉強見なくていいんで気も楽っスね」
「そうだな」
私は本当に頑張ったと思う。そういえば、今年三年に上がる小娘の進路指導はちゃんとジジイが出るのだろうか? 太郎のように高等部卒業したらすぐにプロのハンターになる者だけではないからな。大学に進むもいいだろう。選択の幅が広がることはよいことだ。
「坊ちゃんもそろそろ将来何をするか決めておられるので?」
「まぁ……プロのハンターやるつもりですけど」
「大学くらいは出ておいて損がないと思うのだがな」
その後からでも十分活動できるだろうし、並行しても構わない。
ただ、この先のことを決めるのはラウル自身であるべきだろう。どんな未来を選ぶにしても大丈夫なように資金は用意しているし、問題はない。
「フェリクスはやりたいことないんスか?」
「平穏に引きこもり、が一番の希望なのだがなかなか叶わんのだ。どうしてだろうな」
膝の上に飛び乗ってきたアルテを撫でながらそう言うと、ラウルとダンテが微妙な顔をしていた。
おい。何か言いたそうだな?
「アンタはもう少し性格悪くならねぇと願い叶わないと思いますよ」
「昔は『暴虐の限りを尽くした』などと言われていましたが、あれだって哀れな魔族を助けてやった結果、人間からそう言われるようになったというだけのことですからねぇ……」
「あ。やっぱそうなんだ」
やっぱそうなんだ、とは?
私がどれだけ多くの者に恐れられていたかわかっていないようだな。
「自分でそう言う割には、ヘスティアさんとジークさん、マデリーンさんも助けられたって言ってたしな。フェリクスの知り合いが『昔のフェリクスは強く恐ろしかった』って言うけど、それだったら友達とかやってらんねぇだろうし」
「我が主が強く恐ろしき存在であったのは確かですよ。今でもそれは変りません。ただ、そう在る機会がないだけです」
もっと言ってやれ、ダンテ。
そして、アルテ。お前は私の手を齧るな。
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
アルテは(フェリクスにとって)世界で一番可愛い猫ちゃんなのでフェリクスに何をやっても許される。




