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よくある転プレもの  作者: 場東柿生
第二章 「償いしたい系主人公」
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主人公の物語は大抵ハッピーエンドで終わるというテンプレ

 昔から、自分は一人だった。



 おばあちゃんは、自分が小さかった頃から町に働きに出ていた。両親はいない。兄弟もいない。友達もいない。仲間もいない。いないづくしだ。



 それと記憶がないのだ、自分は。



 おばあちゃんが道端で倒れていた自分を見つけ、育ててくれた。



 そして、自分が大きくなってからはおばあちゃんと働き始めた。虫の繭から糸を紡ぐ作業だ。子供でもできる、簡単な作業。



 給料は、きっと高くない。比べたことはないけれども、自分とおばあちゃんの給料を足して、ようやく一日二食じゃなくなったから、たぶん高くないだろう。



 それで、自分が一人立ちができるくらいに成長して、おばあちゃんが「そろそろ孫の顔が見たいねえ」なんていい出したころ。



 アイツがやってきた。



 自分がいないときにアイツはやってきた。自分が見たのは、帰ってドアを開けた瞬間、アイツがおばあちゃんをめった刺しにしている姿だけだ。



 それを見たとき、自分はなんて思ったんだったか。今ではもう覚えていない。



 でもきっと、ひどい倦怠感に襲われていたはずだ。



 現実逃避をしたくても、させてくれない現実がそこにあって、どうやっても逃げれなくて、立ち向かうしか選択肢がない――そんな嫌気が差してくる、倦怠感。



 だから、何を考えたのかはわからなくても、あの時自分は、確かに現実に向かっていた。



 どうしようもない現実には、結局立ち向かうしかない。逃げることなんて、できやしない。



 だから自分は、また立ち向かった。



 そろそろ、許されないかな。




×




 殴られた、蹴られた、踏まれた。



 自分が受けた仕打ちは、ただそれだけのこと。あと、左の耳が聞こえない。きっと殴られた時に、鼓膜が傷ついたのだろう。



 これをひどいと思うかは、人それぞれだ。



 多くの人を騙していた、その罪の重さ。それに見合っているかどうかは、自分が決めることじゃない。



 なら、誰が決めるのだろうか。



 いや、愚問だった。自分はきっと、その罪を許されたから、ぼろぼろになりながらでも、ここに立って、歩けているのだ。



 自分は一応、許された。



 そういえば、トレッドさんは一回も殴ってこなかった。みんな思い思いに自分に罰を与えたというのに。



 ふと、顔見知りの少女の歪んだ顔と、おばあさんの不快なものを見る目がよみがえった。



 自分は、大丈夫だ。



 それを思い出しても、何一つ感じない。



 何も思わない。



 だから自分は、一人で歩いてゆける。




×




 隣町にたどり着いた。



 時間帯は深夜。当然、人はいない。



 と、思ったら、誰かが歩いてくる。手には照明器具を持っている。



 自分の顔はきっと見えているだろうけど、何のアクションも起こしてこない。



 なら大丈夫かと、横を素通りしようとした瞬間――。



 腕をつかまれた。



「久しぶりね」



 女の声、聞き覚えがあった。でも、さすがにありえないだろうと否定する。しかし、否定できそうにもない。



 自分が、謝りたいと思っている人間が、そこにいた。



「死んだと思ってた。よく、生きてたわね」



 アイツの、母親だ。



「何か、御用ですか?」



 平静を装って話す。本当は、今にも土下座したくてたまらなかった。



「ここではなんだし、私の家で話しましょうか、近いから。すぐそこよ」




×




「あれから、どうしてた?」



 どう、か。草を食んで、川水を啜り、教会にたどり着いて、恋をして、罪滅ぼしをして、殴られて、今ここにいる。



 要約すれば、短いものになる。



「死に掛けていました」



 そういうと彼女は、顔に初めて笑みを浮かべた。



「そう。安心したわ」



 そう。自分は許されない。許されるかもしれない、なんて期待はできない。自分は結局、いつまでも一人で、現実と向き合うしかないのだ。



「ま、見ればわかったけどね。あれからあなたがどんな風に生きていたのか、なんて」



 彼女が立ち上がった。お湯が沸いたらしい。



 彼女は鍋を掴むと、自分の頭の上まで持ってきた。



「殺してあげましょうか? 死にたいでしょう? 生きたくないでしょう?」



 愚問だ。死にたいのなら、とっくの昔に死んでいる。



「あなたが死を、自分の罪滅ぼしだと思うのなら、どうぞ」



 きっと昔の自分ならば、迷わず死を選択していた。自分は、弱かった。



「そう。なら、やめておくわ」



 わかっていた。あなたがかけないことなんて。だってあなたは、自分と同じになりたくないはずだろうし。



「なら、私は――許してあげる」



 わかっている。自分は許されな――



「……は?」



「言った通りよ、あなたはもう、許された」



 嘘だ、嘘に決まってる。そんな簡単に許されるわけない。嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ――。



「消えてくれない? 目障りだから」



 そう言われて、自分は閉め出された。




×




 彼女の家を出て、自分は歩いた。



 一人だ。



 もう夜更け。人は一人もいない。月明かりだけしか、頼りはない。



 月は綺麗だ。涙が出るくらいに、綺麗だ。なんだか懐かしい。とにかく、きれい。



 涙が頬を伝う。二つの跡は、顎に来てつながり、ぽろぽろ地面に落ちた。



 地面に、尻餅をついた。その衝撃で、蹴られた箇所がひどく痛んだ。



 なぜだが、立ち上がる気力が湧かなかった。なぜだろう。自分はこんなにも、自分のことが嫌いで、憎んでいるのに。自分を痛めつけれる行為は、これしかないとわかっているのに。



 許されていいわけがない。自分は、そんなこと、望んでない。



 ここで立たないと、駄目な気がする。自分の根本的な、己を形作るそれが、揺らいでしまう。



 でも、なぜか、立ち上がれない。



 体からふっと、力が抜ける。背中から倒れて、ひどい痛みに悶えた。



 涙は、いつまで経っても止まる気配はなく、流れ続けている。



 止まない涙は――、止まない雨はない。そんなのは、幻想だ。



 雨は、いつまでも止まない。全てを平等に照らす太陽は、いつまでも現れない。



 たとえ止んだとしても、自分は今欲しくない、取り返しのつく頃に、止んで欲しかった。もう、止んでも遅い。



 もう、無駄だ。



 でも、今なら、もしかしたら、間に合うかもしれない、なんて思ってしまった。



 もうどうだっていい。自分の罪も、全てのしがらみを全部、何もかもかなぐり捨てていってやる。



 呼ぶだけならきっと、罪じゃない。



 だから思って、いった。



「会いたいな……」



 後ろから、誰かの足音がした。




×




「ここに、いたんですね……」



 息を切らした彼が、そこにいた。さまざまな思いが、交差した。



 なんでいるんだろう、とか、どうやって来たんだろう、とか、そんなくだらない思い。



 いいたいことは、一つしかない。これしか、今はもういいたくない。



 もういい、もう、いい。



 でもその前に、するべきことが、ある。一つ感謝を。



 ありがとう、神様。今だけだ。今だけ、自分はあなたに感謝する。彼とめぐり合わせてくれたことを、今だけ、今だけ感謝する。



 彼は、少しはにかんでいった。



「来ちゃいました、親切な人に助けてもらって。あれから周りにさんざんなことをいわれたんですけど、やっぱり、あなたの側にいたくて……。なんだか、落ち着くんです。駄目、ですか?」



 そんなわけがない。ありがとう。



 もう一度、思いを形にしようと思ったが、それをする前に涙が止まらなかった。



 でも幸いだ。彼が盲目のおかげ。この涙は、彼に見えないから、だから気にしないでいられる。



 自分は、これをいってしまったら、屑になるかもしれない。



 罪も、罰も、全部無視した言動を、今からする。



 自分はいう。悪いことだとは、思わない。



 アイツは、もう自分のことを許してはくれないだろう。



 でも、関係ない。自分は自分の罪を忘れない。それを思い出し続けて、いつまでも苦しむ。



 自分の罰を自分で決めていいはずがないなんて、嘘っぱちだ。



 だって、決めてくれる人なんていないじゃないか。



 偉い人は自分に、罰印を与えた。周りは自分に、暴力を与えた。あの人は自分にしがらみを与えた。



 与えただけだみんなは、罰を。



 罰の終わりは死ぬまで続く。



 何故か自分は許されてしまった。



 ――いや、もう、やめた。



 『私』は『私』だ。『自分』じゃない。


 

 一つだけ、質問しよう。それで、決める。



「あの……」



「なんでしょう?」



 



「私を、許してくれますか」



「はい、もちろん」



 ――もう、駄目、




 自分は、アイツのことを忘れない。いつまでも思い出して、苦しむ。



 だからいう。勇気を振り絞って、言葉を紡ぐ。



「あの……私からも、お願いします。一緒に、来てくれますか?」



 私は、この人と生きていきたい。



 彼の頬がほんのり赤く染まった。なんだか、以外だ。この人にそういう感情があったとは。自分は、永遠に主に尽くしますので、お断りします、とかいいそうだったのに。いや、この人からいってきたんだった。



 でもそんな予想外なところも、好きだ。



 だからといって、好きを言葉にするのは、まだ早い。



「ていうか、教会はいいんですか? あれだけ大切にしていたのに」



「ええ、もういいんです。本当は、神様なんて、いないのですから……」



 私は生きる。絶望しようがなんだろうが、最後まで生きて生きて、完走してやる。



 これからの不安なんて一切ない。彼がいれば、きっと大丈夫だ。



 月が私たちの進む道を、ほんのり照らしていた。

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