主人公のコミュ力はなぜか高いというテンプレ
最近、寝ている時に胸がもやもやすることが多い。
しかし、不快ではない。
これを作り出しているのは私の中にある何か。それが私の胸にたまって、もやもやを作り出していることはわかる。
でも、その何かを明確な言葉で表すことはできない。
語彙が増えれば、表現力をつければ、もっと私のことを理解できれば――でも、やっぱりできる気がしない。
できたくならない。この何かを、言葉で表現できないし、したくない。
してしまったら、私の根底にある何かと、もやもやを作り出している何かが共鳴し始めて、私が壊れてしまいそうで、怖かった。
私はきっと、変わることを恐れている。
怖いから、変化から逃げ続けている。
でもそれでいい。私の中にある善。私の根底が変わることで、それすらも悪に変わってしまうことは、きっとない。
ただ、それが起こったとき自分は、救いようのない屑になる。悪にはならないが、どうしようもない屑になる。
それだけは、わかっていた。
×
とりあえず、顔見知りのおばさんと少女には声をかけた。
この村の人口は五十弱。教会の収容人数は三十強。とりあえず来客が確定しているのは、たったの二人だ。
これは、さすがに異常な数字ではないだろうか。
彼は、多い時には五人来る、といっていた。
ということは、全体の十分の一しか来ていないことになる。多い時でもこれとは、さすがにおかしい。
でも、事情はなんとなく察しがつく。
普通に考えて、彼が集客をしないことはありえない。きっと彼なら、私の理想の彼なら、「主の偉大さを広めるため」なんて理由で、血気盛んにそれをするだろう。
でも彼は、盲目だ。
できることはきっと限られていたはずだ。どれだけ熱意があったとしても、盲目は大きすぎる。
世の中は、いい人ばかりじゃないのだ。彼が頑張って客寄せをしても、盲目の障害者が変なことをしている、ぐらいにしか感じない。
だから、私が頑張らなければならない。
私も、もうほとんど障害のようなそれを持っているけれども、それでも彼よりはましだから。
私はやらなければならない。
×
日課の掃除を終えて、すぐ集客に飛び出した。
リトシム君の、「いってらっしゃい」も聞かずに、逃げるように飛び出した。
彼には、何個か嘘をついた。
もう二十人は来てくれることになってるとか、みんな楽しみにしてるとか、そんな嘘。きっと世界一くだらなくて、残酷で、甘さと苦さを混ぜてぐちゃぐちゃにしてような、そんな不安定な嘘。
本当は、まだ五人も集まってないのに。
残りの三人は、適当なことをくっちゃらべて、詐欺紛いのことをして、無理やり約束を取り付けたようなものなのに。
やっぱり、私は嫌いだ。こんなすぐばれてしまう嘘をつく私が、大嫌いだ。
でも不思議と、死ねばいいのに、とは思わなかった。
理由は、もう知ってる。
×
今日は、隣町まで行った。近いから、この村まで来るのに大した労はいらない。だから教会にも来やすいだろうと思って、行った。
成果は一人だけだった。
優しい鍛冶職人さんが、来てくれることを約束してくれた。
これで、六人。
期日まで後、七日。
一日二人で、間に合うだろうか。
×
子供はカモだ。馬鹿だから。
人を疑う心を知らないというのを、馬鹿という言葉で表すのは間違っているかもしれないが、疑えない――純粋とは、すなわち馬鹿だ。自分はもう、屑なのかもしれない。
今日の成果は五人だ。家族連れが運良く見つかったおかげだ。もしかしたら、これも神様のおかげ、なんて。
くだらない。
もしそうだったとしても、自分に祈ってくれる人を自分で集めるなんて、馬鹿以外の何者でもない。本当にそうだったら、やっぱり私は神を信じられない。
そして神が嫌いだ。
明日。私の償いが認められるかもしれない日がやってくる。
報われるのか、それとも無駄に終わるのか。どうなるだろうか。
ここに来て私は、ようやく自分がこの状況をどこか客観的に見ていることに気がついた。物語を外から見ているような、そんな視点に立っている気がした。
はたして、どうなるのだろうか。
×
リトシム君が沈痛な表情で、「話があります」といった。
明日に向けて飾り付けがされた聖堂の中央で、彼が俯いた。背景のステンドグラスが夕日に照らされて綺麗に輝いている。
そして、口を開いた。
「実は、運営費が足りていないんです。本当にもう、来年にはこの教会は取り壊されてしまうほどに」
それだけでは、彼が何をいいたいのかはわからなかった。
彼は続ける。
「あなたに客寄せをお願いしたのは、収益のためなんです」
そういえば、彼は帰霊祭の日に何かを売るといっていた。なんだったのかは忘れたが。
「結局、何がいいたいんですか?」
別に怒っているわけでもないのに、声に苛立ちが含まれていた気がした。実際彼もそう感じたらしく、一瞬動揺した素振りを見せた。
「私は、あなたにさんざん主を信じろといったのに、優先していたのは自分のことだったんです。そのことを、謝りたくて」
なんだ、よかった。
「別にいいです。私が今こうして生きれているのは、あなたのおかげですし。あなたがどんなことしても、私は着いていきますから」
やっぱり、彼は優しかった。
そんなところも、全部ひっくるめて、私は――なんて、やっぱりいえそうにない。
彼はほっとした様子を見せている。しかしなんで私にこんな真摯な対応をしてくれるのかはわからない。いつでも切り捨てられるだろうに。私が来ていなかったとき、一応教会は機能していたのだし。
「でも、不思議ですね。教会は本来、誰かを助けるための場であるはずなのに、そんなお金稼ぎの場みたいになってるなんて。まあ、私の願望も含まれていますけど」
「ええ。でも、それが現実で、主が私たちに求めている姿であるのなら、従うほかありませんよ」
やっぱり、私は彼のことが、好きだ。
曖昧な好きじゃない。明確な好き。
どうせ寝れば元通り。なら今を、少しは楽しむのも悪くはないんじゃないだろうか。
「でももしも」
彼がまた、話をし出した。
「主が間違いを犯せる存在ならば、これはきっと、悪しき風習なのでしょう」
私と彼の脳みそは、意外と同じ形をしているのかもしれない。
「さて、夕食にしましょう。今日は私も手伝います」
「あなたはやめておいたほうがいいと思います。手とか切ったら大変ですし」
焦って止めた。
こんな日々が続くことを、心から願った。




