主人公の本音はいつまでもいえないというテンプレ
本当は一月中に完結させるつもりでしたが、筆力不足で間に合いませんでした。申し訳ありません。
買出しに行く時は、細心の注意を払わなければならなかった。
町を歩いていたときに顔の印を見られて、めんどうなことになったからだ。視線や言葉ならまだましな方だが、ときどき殴ってきたりだとか、石を投げてくる人がいる。幸い致命傷は受けていないが、このままでは不安だ。
それにリトシムさんに迷惑をかけたくもない。
だから顔を隠せる衣服はないものかと思っていた。
そして最近、ようやく気づいた。
布で顔を覆えばいいのだ。そして首の後ろで結べば、印は隠せる。
不審に思われたら、顔に大きな傷があるから、とでも答えておけばいいはずだ。
だから買出しは、そうやって苦心しなくてはならないし、何かの拍子に布が取れて印を見られてしまうかもしれないから、嫌いだった。
しかし、今は違う。
買出しが楽しみになった。友達、といえるかはわからないが、同年代の話し相手ができたのだ。
野菜を少し安く売ってくれるおばさんとも話せた。花を毎日売っている少女とも話せた。
だから、楽しみになった。
そんな権利はないのに、どうしても思ってしまう私は、どうしようもない。
×
私は、教会関連の仕事を任されたことがない。
理由はなんとなくわかっている。
神を、信じていないからだ。ついでに知識もない。
そんな人間には任せられないだろう。
別に文句をいっているわけではない。家事は好きだし、誰かの役にたつことも好きだ。私ができる数少ない償いだから。
ただ、それ以外にできることが何かないのか、そう思っただけである。
だから、行動に移すことにした。
「あの、他に、家事以外にできることはないんですか」
どんな回答がくるのか、予想はついている。
「今のままで十分ですよ。あなたにはよくしてもらっています」
だと思った。この人は、毎度毎度そうだ。本音はいわないし、これ以上を求めない。
何歩か譲って、本音はいえないというのはわかる。しかし、これ以上を求めないというのは、何歩譲ろうがわからない。
それがないわけがないからだ。神を信じていないという、侍者として致命的な欠陥を抱えているのだし。
しかしそんな不満を抱えていても、私は文句はいえないのだ。
彼のこれ以上がない笑顔を見ると、なぜか文句は出ない。
だから私は、彼の目が見えないのをいいことに、今日も俯いていってしまう。
「はい、わかりました」
やっぱり、本音はいつまで経ってもいえない。
×
「なんで、神を信じることができるんですか?」
ふいに、思ったことが口に出てしまった。ずっと疑問に思ってきたものの、いう勇気はなかったし、返ってくる答えも、どうせ平凡なものだとたかをくくっていた。
だから聞くことは多分ないだろうと思っていた。が、なぜか口から出てしまっていた。
当然、聞かれたのだから、リトシム君は答えてくれる。彼は、優しい。
彼は少し悩んだ格好をして、答えた。どうせ返ってくるのは平凡な答えだ。「主は偉大だからです」とかだろう。大した期待はできない。
「そうしていないと、自分を保てないから、ですかね……」
しかし、意外な答えがかえってきた。
「まだいっていなかったと思いますが、私のこの目は、暴漢に襲われ失くしたのです」
「その時、神を恨んだりしたんですかか? なんで助けてくれなかったんだ、って」
「ええ。一時期、そうなったりもしました。神なんて、いないのだと」
「なら、なんで今信じていられるんですか? 助けてもらえないことは、わかったはずなのに」
「それが、その理由こそが、質問の答えです。私は、主という存在を信じていなければ、たちまち後悔と怨恨に支配されてしまうでしょう」
リトシム君は一呼吸置いて続けた。
「だから、そうならないために私は、神を信じ続けるのです。助けてもらえなかったのは、私の祈りが甘かったからだと。たまたま酒に酔った方の近くにいた自分が悪いのだと、納得させて」
もう、その時点で証明されたことが一つある。
この人は、本当の意味で神を信じていない。
信仰はしているのだろう。いつか助けてくれると、期待しているだろう。
でも『いる』とは思っていない。
しかし『いる』という状態は、信じているからこそ起こりえるもののはずだ。だがこの人は、信じてはいるのに、いないと気づいている。
矛盾だ。解消できない、どうしようもない矛盾。
いや、わかった、この人は、神を信じているのでなく、運を信じているのだ。
そうだ。神とは、運のことなのかもしれない。
運を神を呼び、信じていれば運を変えれると思っているのだ。きっと。
いや、神に祈るという行為の意味そのものは、運を変えるため、というより運をよりよくするためにやっている行為か。
結局、こういうことだ。
神は、存在しない。
運をよくする存在――の器。そこに実体は伴っていない。
×
この教会では、年に一度お祝いをするらしいということを、今知った。名前は、帰霊祭というらしい。
なんでも、その日は故人が返ってくる日だとか。安直な名前だ。要するにお迎えをする日らしい。目的はそれだけではないらしいが。
「それで、お願いがあるんですが……お客さんを連れてきてはくれないでしょうか」
「えっと、どういうことですか?」
リトシムさんは、苦々しい顔をした。いつもにこやかな彼がこんな顔をするのは珍しかった。
「実は、お恥ずかしい限りなのですが、毎年人が来ないんです。多い時でも、五人くらいで」
いつも私が買出しに行くときは、毎回村の商店に十人はいる。なるほど、確かに少ない。しかし、私に頼むのは間違いではないだろうか。
「でも、私だって知り合いが多いわけではないですし……人が増えるかはわかりませんよ」
「それでも、お願いします。どうかやってはくれないでしょうか」
しぶしぶオーケーすると、彼はこれまでにないくらいに喜んだ。
しかし、以外だ。
彼なら、人は少なくともいいから、自分達の気持ちが伴っていれば主は喜んでくれる、みたいな考え方をしそうだった。
そこだけが、疑問だった。
ああそういえば、この人は神を信じていないんだった。
なら、仕方ないか。




