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よくある転プレもの  作者: 場東柿生
第二章 「償いしたい系主人公」
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主人公の思考は基本一貫しているというテンプレ

 昔、お婆ちゃんにここに連れてきて貰ったことがある。



 お婆ちゃんは、神様を信じていた。一日一回、かかさず神様に祈りを捧げていたし、私の町の教会にも毎日通っていた。



 そんなお婆ちゃんの影響もあってか、いつの間にか私まで神様を信じていた。



 あれだけ祈りを捧げたのだから、いつか助けてもらえると、勝手に信じ込んでいた。



 もちろんもう過去の話だが。



 神様なんて、いやしないのだ。




×




 ステンドグラス付きの、両開き戸をゆっくり開いた。おそらく天使を模しているであろうそれは、光を反射してキラキラと光っている。



 半分くらい開けて、中をおそるおそる覗き込んでみると、牧師らしき人が一人、祈りを捧げていた。



 かなり集中しているようで、私が入ってきたことに気づいていない様子だ。



「何か……ようでしょうか?」



 気づかれていたらしい。牧師が振り向き、私の顔を見た。



 意外にも、眼鏡をかけた青年だった。手には杖を持っている。私と歳はあまり変わらないかもしれない。こういう職業は、もっと年寄りがやるものだと思っていた。



 第一関門かつ、最難関はここだ。ここでどんな反応を見せるか、ここが全てといっても過言ではない。



「神様にお仕えしたく、ここにはせ参じました。メイと申します。何か、手伝わせてはいただけないでしょうか」



 膝をついていった。こういうものは、とにかく畏まったほうがいいはずだ。お婆ちゃんもそうしていたし。



 牧師は黙っている。これはどういう反応だろうか。



 牧師なのだから、激しく取り乱し追い出すということはないだろうと思っていたが、この反応は予想外だった。



 沈黙が数秒続いた。



「いいですよ。では、侍者をお願いします」



 もっと予想外だった。まさかこんな簡単に承諾されるとは思っていなかった。牧師は柔和な笑みを浮かべている。



「ただし」



 その顔が、一瞬で変わった。



「主を信じてください。信じていれば主は、いつか必ずあなたを助けてくれます」



 ふざけないでほしかった。いや、この人は本気でいっているのだ。だからこそ、腹立たしかった。これは嫉妬だ。絶望を味わっていないから、そんなことがいえるのだ。



 でも、それを口に出してはならなかった。



「……はい、わかりました」



 そういえば、なぜ牧師は私が神を信じていないことを見抜けたのだろうか。




×




「では、掃除でもやってもらいましょうか」



 そういって、箒を手渡された。その程度なら、余裕でこなせる。家事ならそこそこ自信があるのだ。



 しかし、やってもらいましょうか、なんていったくせに自分もを手に箒を持っている。



「牧師様に手伝っていただかなくとも……」



「いえいえ、これは日課ですし、私が神様にできることの一つですから。大事にしていかねば」



 変な人だと思った。



 盲目なのに、なぜ掃除をしようとするのだろうか。それに、その掃除もどきに意味はないというのに。床は埃だらけで、掃除になっていない。



 しかし、この人が盲目というのは、はたして好都合か。いや、もちろんそうなのだが、不安は拭えない。



 まあ、印のことを知っていたとしても追い出されるだけだろう。大した問題ではない。



 掃除はたいへんだった。もともと汚いせいで、余計に時間がかかった。しかし大変だった分だけ、後に得られる達成感というやつは大きかった。



 おっと。虫が鳴った。私は、虫が嫌いだ。駆除したい。



「ははは。ご飯にしましょう」



 笑われた。仕方ないだろう。今日の朝食べたパンが最後だったのだ。




×




 こんないいベッドは、久しぶりだった。温かいご飯も、お風呂も、会話も。



 これでは駄目だ。駄目なのだ。



 楽しいと思うことが、駄目なのだ。私に、そんな権利なんてあるはずがないのだ。人を殺した私に、そんな権利なんてないのだ。



 私は苦しんで、傷ついて、ずっとつらい思いをして生きていくしかないのだ。



 私が開放されていいのは、あの人に許されてからだ。それまでは、私は苦しまないと駄目なのだ。



 でも、そんな心配は杞憂に終わる。



 今夜もきっと、あの夢を見るだろう。



 そしてうなされて、また現実に気づくのだ。



 夢は、いつまでたっても夢のまま、なんていう現実に。




×




 アイツの高笑いが、路地に響き渡る。



 それを聞くたびに、私の頬を涙が伝った。



 首筋に、かさかさした手が触れる。



 生温かい血が、私の服を赤く染めた。



 ここで、夢は終わった。



 白昼夢ではない。私は動けない。ただそこにいるという意識だけが残されている。



 トラウマ、になっているのだろう。おそらく。もう一年近くこの夢を見続けている。未だに、血の温かさにはなれない。



 やっぱり、現実がこれだ。結局、私の一日の始まりはこれ。



 どんなにいいことも、これが全てリセットしてくれる。



 口元に、笑みが浮かんだ。この笑みの意味を、私は知らない。



 私に与えられた部屋は、屋根裏だった。朝日が昇る位置に小窓が設置されているから、日の出を見られそうだ。



 正確な時刻はわからないが、だんだん辺りが明るくなってきた気がする。そろそろ日の出も近いだろう。



 牧師、ではなかった、リトシムさんに朝は五時に起きて礼拝をするといわれていたから、たぶんこのくらいが丁度よい時間だっただろう。



 せっかく早く起きたのだから、日の出を見たいという気持ちもあったが、下りることにした。遅れてはしゃれにならない。



 伸びをすると体の関節が不愉快な音を立てた。しかし、伸びをすると気持ちいいのだから、矛盾している。



 さすがに、まだリトシムさんは来ていない――と、思っていたが、あの人の熱意をなめていた。



「おや、早いですね」



「さすが、牧師様。まだ眠っていらっしゃるかと思っていましたが、こうもお早いとは」



「私は毎朝四時起きですよ」



 ちょっと、勝てないかもしれない。



「しかし、別に敬語じゃなくていいですよ? そんなに余所々々しくされても、違和感がありますし」



「いえいえ、失礼でしょう」



「そんなことはありません。私とあなたの歳は近いでしょう? 逆に敬語を使われた方が、私にとっては失礼です」



 やはり、変な人だ。



 途中からいっていることは支離滅裂だし。なぜ敬語を使われたほうが失礼になるのかも理解できない。



「わかり、じゃなくて、うん。わかった……よ?」



「それでいいんです」



 これでよかったらしい。やはり、理解はできそうにない。



 でも、歩み寄ってみるのも悪くないかもしれない。



 不思議と、そう思えた。

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