主人公の思考は基本一貫しているというテンプレ
昔、お婆ちゃんにここに連れてきて貰ったことがある。
お婆ちゃんは、神様を信じていた。一日一回、かかさず神様に祈りを捧げていたし、私の町の教会にも毎日通っていた。
そんなお婆ちゃんの影響もあってか、いつの間にか私まで神様を信じていた。
あれだけ祈りを捧げたのだから、いつか助けてもらえると、勝手に信じ込んでいた。
もちろんもう過去の話だが。
神様なんて、いやしないのだ。
×
ステンドグラス付きの、両開き戸をゆっくり開いた。おそらく天使を模しているであろうそれは、光を反射してキラキラと光っている。
半分くらい開けて、中をおそるおそる覗き込んでみると、牧師らしき人が一人、祈りを捧げていた。
かなり集中しているようで、私が入ってきたことに気づいていない様子だ。
「何か……ようでしょうか?」
気づかれていたらしい。牧師が振り向き、私の顔を見た。
意外にも、眼鏡をかけた青年だった。手には杖を持っている。私と歳はあまり変わらないかもしれない。こういう職業は、もっと年寄りがやるものだと思っていた。
第一関門かつ、最難関はここだ。ここでどんな反応を見せるか、ここが全てといっても過言ではない。
「神様にお仕えしたく、ここにはせ参じました。メイと申します。何か、手伝わせてはいただけないでしょうか」
膝をついていった。こういうものは、とにかく畏まったほうがいいはずだ。お婆ちゃんもそうしていたし。
牧師は黙っている。これはどういう反応だろうか。
牧師なのだから、激しく取り乱し追い出すということはないだろうと思っていたが、この反応は予想外だった。
沈黙が数秒続いた。
「いいですよ。では、侍者をお願いします」
もっと予想外だった。まさかこんな簡単に承諾されるとは思っていなかった。牧師は柔和な笑みを浮かべている。
「ただし」
その顔が、一瞬で変わった。
「主を信じてください。信じていれば主は、いつか必ずあなたを助けてくれます」
ふざけないでほしかった。いや、この人は本気でいっているのだ。だからこそ、腹立たしかった。これは嫉妬だ。絶望を味わっていないから、そんなことがいえるのだ。
でも、それを口に出してはならなかった。
「……はい、わかりました」
そういえば、なぜ牧師は私が神を信じていないことを見抜けたのだろうか。
×
「では、掃除でもやってもらいましょうか」
そういって、箒を手渡された。その程度なら、余裕でこなせる。家事ならそこそこ自信があるのだ。
しかし、やってもらいましょうか、なんていったくせに自分もを手に箒を持っている。
「牧師様に手伝っていただかなくとも……」
「いえいえ、これは日課ですし、私が神様にできることの一つですから。大事にしていかねば」
変な人だと思った。
盲目なのに、なぜ掃除をしようとするのだろうか。それに、その掃除もどきに意味はないというのに。床は埃だらけで、掃除になっていない。
しかし、この人が盲目というのは、はたして好都合か。いや、もちろんそうなのだが、不安は拭えない。
まあ、印のことを知っていたとしても追い出されるだけだろう。大した問題ではない。
掃除はたいへんだった。もともと汚いせいで、余計に時間がかかった。しかし大変だった分だけ、後に得られる達成感というやつは大きかった。
おっと。虫が鳴った。私は、虫が嫌いだ。駆除したい。
「ははは。ご飯にしましょう」
笑われた。仕方ないだろう。今日の朝食べたパンが最後だったのだ。
×
こんないいベッドは、久しぶりだった。温かいご飯も、お風呂も、会話も。
これでは駄目だ。駄目なのだ。
楽しいと思うことが、駄目なのだ。私に、そんな権利なんてあるはずがないのだ。人を殺した私に、そんな権利なんてないのだ。
私は苦しんで、傷ついて、ずっとつらい思いをして生きていくしかないのだ。
私が開放されていいのは、あの人に許されてからだ。それまでは、私は苦しまないと駄目なのだ。
でも、そんな心配は杞憂に終わる。
今夜もきっと、あの夢を見るだろう。
そしてうなされて、また現実に気づくのだ。
夢は、いつまでたっても夢のまま、なんていう現実に。
×
アイツの高笑いが、路地に響き渡る。
それを聞くたびに、私の頬を涙が伝った。
首筋に、かさかさした手が触れる。
生温かい血が、私の服を赤く染めた。
ここで、夢は終わった。
白昼夢ではない。私は動けない。ただそこにいるという意識だけが残されている。
トラウマ、になっているのだろう。おそらく。もう一年近くこの夢を見続けている。未だに、血の温かさにはなれない。
やっぱり、現実がこれだ。結局、私の一日の始まりはこれ。
どんなにいいことも、これが全てリセットしてくれる。
口元に、笑みが浮かんだ。この笑みの意味を、私は知らない。
私に与えられた部屋は、屋根裏だった。朝日が昇る位置に小窓が設置されているから、日の出を見られそうだ。
正確な時刻はわからないが、だんだん辺りが明るくなってきた気がする。そろそろ日の出も近いだろう。
牧師、ではなかった、リトシムさんに朝は五時に起きて礼拝をするといわれていたから、たぶんこのくらいが丁度よい時間だっただろう。
せっかく早く起きたのだから、日の出を見たいという気持ちもあったが、下りることにした。遅れてはしゃれにならない。
伸びをすると体の関節が不愉快な音を立てた。しかし、伸びをすると気持ちいいのだから、矛盾している。
さすがに、まだリトシムさんは来ていない――と、思っていたが、あの人の熱意をなめていた。
「おや、早いですね」
「さすが、牧師様。まだ眠っていらっしゃるかと思っていましたが、こうもお早いとは」
「私は毎朝四時起きですよ」
ちょっと、勝てないかもしれない。
「しかし、別に敬語じゃなくていいですよ? そんなに余所々々しくされても、違和感がありますし」
「いえいえ、失礼でしょう」
「そんなことはありません。私とあなたの歳は近いでしょう? 逆に敬語を使われた方が、私にとっては失礼です」
やはり、変な人だ。
途中からいっていることは支離滅裂だし。なぜ敬語を使われたほうが失礼になるのかも理解できない。
「わかり、じゃなくて、うん。わかった……よ?」
「それでいいんです」
これでよかったらしい。やはり、理解はできそうにない。
でも、歩み寄ってみるのも悪くないかもしれない。
不思議と、そう思えた。




