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死神の挽歌  作者: 政宮司 春華
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3/4

宮崎警視の推察

男は暗闇に包まれた校庭に立っていた。

堅牢な門を、制服警官に会釈で通してもらい、闇夜に佇み、ひと際蛍光灯の明かりを放つ県立三条高校の校舎を見つめていた。


「持て余しそうだなあ・・・・。」


そんなセリフが溜息とともに、自然と口をついた。


そして、男は誰かを呼び止めた。

誰かは、数人の警官だった。

警官たちは、その男と会話すると、散り散りにどこかへとむかっていった。


男は、夜空を一度見上げてから、とぼとぼと事件が起きた視聴覚教室に向かって歩き出した。


「宮崎警視!」


先に現場に到着していた警官に呼び止められた。

宮崎警視は呼び止めに応じて立ち止まり、その警官はいつも通り状況を教えてくれた。


「被害者はここ三条高校の生徒、サッカー部主将、尾木隆介。胸の二か所をこうズバリです。」


それは、見るも無残な最期だったろう。

現場は、血に染められていた。

今は、鑑識が現場を隅から隅まで調べているようだ。


「ひどいねえー、こりゃー。」


それが、宮崎警視の感想だった。

なぜ、学校で生徒がこんな風に殺されなければならないのか。

宮崎警視は、もっともその答えを見つけ出さねばならなった。


先ほどの部下曰く、まず扉から血がながれ出ていたのを一番初めに発見した保健室教諭の水城レナに話を聞いたということだった。

彼女は妊娠しており少しおなかが大きくなりだしていた。

恐らく妊娠4か月目くらいで、普段は早く帰っているようだが、今日は学校の球技大会の前ということもあり、その準備をしていたのだという。

1Fの保健室から2Fの職員室へ戻ろうとしたとき、視聴覚教室の扉付近が何かで汚れているのを発見したらしい。

それが血だと分かった瞬間、悲鳴を上げてその場に崩れ落ちてしまったそうだ。

その悲鳴を聞きつけて、同じく2Fの教室に残っていた男子生徒と女子生徒が駆け付けたという。

その二人は、今別教室で話を聞いている最中だという。

その後、男子生徒が職員室に行き、先生たちを呼んできた。

一方、女子生徒は水城教諭と現場に残った。


視聴覚教室の扉は施錠されており、職員室に鍵はなかった。

仕方なく、校長室の金庫からマスタキーを取り、視聴覚教室の鍵を開けた。

部屋は、真っ暗だったそうだ。

電気をつけると、部屋には尾木の死体があり、なんと視聴覚教室の鍵は現場に落ちていたそうだ。

それが意味するところは、密室殺人であった。


「どうやって密室にしたのか。そして、なぜに密室だったのか。」


宮崎警視は、繰り返し問うていた。

現場にいる警官たちは皆自分に与えられた仕事に集中していた。


最後に最も奇妙なものが、宮崎警視の目に留まった。

それは、この現場に残された犯人の犯行メッセ―ジだった。


「コレハ ハジマリ」


「なんの始まりなのか?」


「これは連続殺人か、なにかだろうか。」


宮崎警視は首を捻る動作を繰り返すばかりだった。

ただ、多くの現場、事件を経験している一流の犯罪捜査人だけあり、その洞察力は優れていた。

しかし、宮崎警視は、目の前にある犯行をすぐさま証明できなかった。


「とりあえず、その男子生徒と女子生徒に話を聞いてくるよ。」


宮崎警視は、何かを思ったのか、またとぼとぼと視聴覚教室を出て、別教室に歩き出した。

制服警官は少し不振に思った。

なぜなら、彼は、少し楽しそうだったからだ。




※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




俺は、千歳と一緒に2人の制服警官の質問に答え、俺たちが体験した事件のあらましを説明していた。

すると、教室の扉が開き、刑事と思しき男が入ってきた。

グレーのスーツを身にまとった黒髪の男だった。

年齢は、40歳代前半だろうか。

色白で聡明そうな顔立ちに、線は細いが、刑事ということもありどことなくがっちりした体躯だった。

男は、教室に入って来るや少し驚いた表情を作り、こう言ったのだ。


「やあ、四谷君。何年ぶりだろうね。」


俺は、その男に見覚えがあった。

そう、4年前に会ったことがあった。


「・・・・みや・・ざ・・きさんですか?」


俺は、何とか名前を思い出した。


「そうだよ。覚えてくれてたんだね。懐かしいねぇ。」


何とも言えない返答だった。

千歳が、すぐ割り込んでくれて助かった。


「よつやくん、知り合いなの?」


「そう、以前会ったことがあって、刑事の宮崎さん。」


俺は、千歳にそう説明した。


「ふーん。刑事さんと知り合いなんだ・・・・。」


千歳は、何か言いたげだったが、それ以上は何も聞いてこなかった。


「いやー、四谷君がいてくれて良かったよ。今回のこの件は、さっぱりつかめないんだ。」


「そう? 刑事さん、そんなことないんじゃない。」


千歳が、宮崎さんの言葉に異議を申し立てたようだ。


「わたし、現場を見たから言えるけど、視聴覚教室は密室だったんでしょ。

しかも、おぎくんは、あんな殺され方をしてた。

それに黒板に残された文字。

怨恨による内部犯、つまり、おぎくんに恨みがある学校関係者の仕業じゃないの?」


千歳は、冷静に事件を分析していた。

宮崎さんは、少しあっけにとられた表情になって、それから微笑が口元に出た。


「四谷君、こちらの聡明なお嬢さんは、誰だい?

素晴らしい推理じゃないか。」


おいおい、あんたは歴戦の刑事じゃないのかよと思いつつも、宮崎さんに千歳のことを紹介した。


「ほおー、千歳君か。四谷君に負けず劣らず名探偵なんだね?」


「よつやくんに負けず劣らずって?」


千歳が、宮崎さん聞いた。


「ちょっと、宮崎さん。そのくらいにしておいてください。」


俺は、宮崎さんを制止しした。


「すまないね。千歳君、その件はこのぐらいにしておいて、ちょっと君たちの推理力を貸してくれないかな?」


宮崎さんは、そっとほほ笑んだ。

その微笑みの意味は、俺にはわからなかった。


「被害者の尾木君の事件前までの行動は、少しつかめているんだ。」


宮崎さんは、追加の説明を加えつつ、俺たちになぜか捜査の進展を説明してくれた。


被害者尾木圭介は、その日サッカー部は休みであったが、遅くまで一部の部員たちと自主練にいそしんでいた。

その後、「俺もう上がるわ。」と、何人かの部員たちを残し、自主練を終えた。

だが、部員たちが一人を残して自主練を終え、部室に戻ると、そこには尾木君の荷物がそのままになっていた。

サッカー部の部員たちは、校内で用事でもしているんだろうと思い、また副主将がまだ残っていることもあり、そのまま帰ったそうだ。


以上が、特定した範囲での事件前の尾木君の足取りだと、宮崎さんは説明した。


さらに、宮崎さんの話では、容疑者をある程度、絞ったようだった。


「それに、学校内にいて、当時アリバイのなかった人物も特定済みだよ。」


「千歳君が言った線で捜査は始めているんだ。

そこで、概ね次の三人がアリバイなしとして、容疑者に浮上したんだ。」


一人目は、放課後ずっと一人で球技大会の前準備で仕事をしていた、血の第一発見者水城レナ先生。

二人目は、体育準備室に一人でいた体育教師兼生徒指導の若田部先生。

そして、三人目は、一人で遅くまで自主練をしていたサッカー部副主将の城内君だった。


宮崎さんは、大方の説明を終えて、皮肉っぽく笑っていた。


「実に、ここまでは簡単だったよ。

千歳君のいった通り、恐らく内部犯で決まりだろうね。

だが、わからないのさ。

なぜ尾木隆介は、学校であのように殺されなければいけなかったのか。

そして、ハジマリとはなんなのか。」


宮崎さんは、出題者だったのかもしれない。

なぜか、俺と千歳にこの事件の概要と犯人の選択肢を提供していた。

犯行を解明しろとでも言いたげに。





宮崎警視の洞察力は、優れていた。





つづく……

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