雨降って地固まるです。
年内中に終われてよかったぁぁぁぁっ!
あれから……力加減を忘れた佐藤くんに抱き締め上げられて、胃の中のケーキがリバースしそうになって大変だったんだけど……。
抱っこされながら佐藤くんが話してくれたのは、有賀さんのこと。
有賀さん、プレゼントを渡して再度告白しようとしていたみたい。
クリスマスにこの水族館来ることは佐藤くんのお母さんが言ってたのを聞いたんだって。
だから寒い中待っていれば佐藤くんも少しは有賀さんのこと気にかけてくれるんじゃないかって考えたみたい。
でも、私があの場所から消えたことで佐藤くんの情け無い姿を見て、スッパリ諦めがついたって言われたらしい。一緒にバスで戻って来た有賀さんはそのまま帰ったみたい。
佐藤くん、マフラーは受け取らなかったって。
それを聞いてチョット複雑になったのよね。
受け取らなかったことは正直嬉しいって思ったよ。でも、マフラーを編んでる有賀さんの姿が浮かんだの。網目飛ばしてやり直すために糸を解いて、毎日毎日チマチマチマチマ編んで完成させることだけを考えて。
私も何度も何度も指に針を刺して三ヶ月でタオル二本。まぁ、残り四日弱でリストバンド二つ完成させたんだけどね。頑張ったよ、私。
なんとか無事にプレゼントも渡せたから良かった。
あのまま帰っていたら、もっと仲直りが難しかったかも。プレゼントも渡すタイミングなくしちゃうよね。
沙樹ちゃん達には感謝です。
そう言えば、沙樹ちゃんと久保くんはどうしたんだろう。まさか……あの後も隠れて写真撮ってたり……する?
また恥ずかしい写真が出回るんだ……。溜息出ちゃう。
有賀さんには……本当に悪いことしてしまって罪悪感が拭えない。
でも佐藤くんにそれを言うと、
『あいつは計算で動いたんだから佳奈恵が気に病むことは無い。』
こう言われたのよねぇ。相変わらず容赦無い言い方で。でも計算って言うけど有賀さんは頑張ったよ?佐藤くんのこと好きじゃなかったらできないことだと思うの。
だからって私が有賀さんに謝るのは失礼だよね。
いつかーーーそういつか有賀さんにありがとうが言えたらいいなぁ。すぐには無理だと思うけどね。
佐藤くんと言えば、私が生まれて初めて刺繍したタオルとリストバンドをとても喜んでくれました。不恰好なイニシャルにも喜んでくれて、頑張った甲斐がありました!
それからタオルとリストバンドの他にパスケースも一緒に渡したの。写真をね、入れて。
佐藤くんから貰ったクリスマスプレゼントは白猫パペットとシルバーのブレスレット!
三連のハートにピンクの小さな石が付いたブレスレットで、嬉しくって嬉しくって思わず佐藤くんに抱きついたら抱き締め上げられました!臓物がリバースしそうでした!これも危険行為に認定しておきます!
シルバーのブレスレットはちゃんとケースに入ってました。白いサテンのケースに。
プレゼント交換はショッピングモール内にあったハンバーガーのお店でしました。
お昼を食べ損ねてお腹が減った佐藤くんの要望で。
『本当は水族館の近くにあったレストランに行こうと思ってたんだけど、ごめんな。』
雰囲気は大事だと思うんだけどーーーでもね、今となっては佐藤くんと一緒ならどこでも楽しいし、嬉しいし、恥ずかしいから。
私の隣に佐藤くんがいてくれればそれでいいかなぁって。ひゃぁ〜〜!恥ずかしくって言えないけどね。
その後もお店を見て回って、そろそろ帰らなきゃねって駅へ向かって歩いていたら、なぜか瑠美ちゃんとバッタリ!
アレ?って思っている間に距離を縮められ、般若の瑠美ちゃんが佐藤くんの目の前で立ち止まって、
『ーー歯ぁ、食いしばれ‼︎ 』
と同時に佐藤くんのお腹に瑠美ちゃんのパンチがめり込みましたぁぁぁぁっ!
いきなりの攻撃に佐藤くん、お腹を抱えてその場にうづくまってしまいました!
慌てて佐藤くんに駆け寄ると瑠美ちゃんの地を這うような声が聞こえてきました⁈
『佐藤、お前には学習能力と言うモノが無いのか?いい加減にしろ!何度言えば貴様の脳ミソに刻まれるんだっ!」
はぁぁぁぁっ⁉︎忘れてた!沙樹ちゃんが言ってたこと!どうしよう‼︎
佐藤くんの背中をさすって瑠美ちゃんを見ます。表情は険しいまま。とにかく瑠美ちゃんの怒りを諌めないと!
そう思ったときーーー
『ダメだよ瑠美ちゃん。暴力はダメ。相手がいくら佐藤くんでも手を出しちゃダメだよ。』
瑠美ちゃんの後ろからひょっこり覗くのは、柔道部稼ぎ頭トリオの一人、栗田くん!
えっ⁈なんで栗田くんが⁇
『でもっ!アッたまくるんだもん!』
だもん⁉︎ 瑠美ちゃんがだもん⁇
『ーーーー軍曹がっっ⁈ 』
復活していた佐藤くんが余計なことを言わないように慌てて頭を押さえつけました!
『瑠美ちゃん!ごめんなさい!沙樹ちゃんが連絡しちゃったんでしょう?私は大丈夫だから、ホラ!ちゃんと話し合いをして仲良しです!』
力一杯訴えました!瑠美ちゃんを見る目にも力を入れて!
『ほら、ラブラブだって。だからぼく言っただろう?痴話喧嘩は犬も食わないって。』
『それは夫婦喧嘩!』
『あっ!そうかぁ、さすが瑠美ちゃん。博識だねぇ。』
さっきからニコニコ笑っている身体の大きい五分刈りくん。私の中での呼び名は犬食いの栗田くん。
『博識ちゃう!常識‼︎ 』
????やっぱり瑠美ちゃんいつもと雰囲気違うような?
『お前らもデート中?』
私に押さえつけられた状態で佐藤くんが禁句発言を⁉︎
『貴様に応える筋合いは無い!』
対応が明らかに違います!これはひょっとしてひょっとします!
『瑠美ちゃん!ごめんね!瑠美ちゃんの家に戻ったらちゃんと話すから、ねっ。』
『瑠美ちゃん。雨降って田んぼ潤うだよ。』
『雨降って地固まる‼︎ 』
どうしたらあそこまで間違った覚え方するんだろう?栗田くんってちょっと不思議くん?
結局瑠美ちゃんの家に戻った後も栗田くんのこと聞けなかったんだよね……聞くなオーラが半端無くって。
でも、瑠美ちゃんはやっぱり私のオカンでいつも心配してくれる私にはありがたいお方なのです。
きっと沙樹ちゃんからの連絡で来てくれたんだと思うんだけど、佐藤くんの言う通りもしも栗田くんとデート中だったとしたら……どうしよう⁉︎ 邪魔しちゃったよ!クリスマスデート!
あああっ!瑠美ちゃんごめんなさい!
この先瑠美ちゃんのピンチには必ず駆けつけると誓います!絶対です!プロミスです!
そして、佐藤くんに言い足りない感を露わにする瑠美ちゃんを、犬食い栗田くんがニコニコの笑顔とおかしなことわざ連発で煙りに巻くようにショッピングモールの方へと去って行きました。
『案外、いい組み合わせかもな……軍曹と栗田。』
帰りの電車の中、外の景色を見ていた佐藤くんがボソッと呟きました。
私も頭を振って同意しました。
初めてのクリスマスデートは山あり谷ありで、恋愛初心者には良い経験になったんだけどね。
佐藤くんに渡すために苦手な刺繍をやり遂げるなんて、好きな人のためじゃないと出せないパワーだと思うんだぁ。
恋する女の子ってすごいよね。
まだこの先、何が待ち構えているのかわからないけど、その度に自分の気持ちを正直に伝えて佐藤くんの気持ちもちゃんと聞いて、ずっと一緒にいられたら嬉しいなぁ。顔がニンマリしちゃうなぁ。
「佳奈恵、手冷たい。」
繋いでいた私の手をキュッと握ります。佐藤くんの手は大きくて暖かくて私の手を包み込みます。
「あっ!そうか、こうすればイイんだ。」
そう言うと私の手を握ったまま自分のジャケットのポケットに……。
「あったかいだろ?」
優しい佐藤くんがずっと私の隣で笑っていてくれますように。
「ありがとう。佐藤くん。」
何とか終わりました!ありがとうございました!