16話 緊急事態
「――すみませんっ!!! シロウさんはいますかっ!?」
まどろみの中、俺を呼ぶ声が聞こえた気がした。
確か、俺は宿屋で寝ていたはずだ。
「――うう、、、 何かあった?」
半分ほど、意識が覚醒してきて、ようやく周りの状況判断に移り始める。
隣のベッドで、ミミとココネとシェーラが寝ているだけで、後は誰もいない。
部屋も寝る前と変わりない。
「――気のせいか、、、」
もしかしたら幻聴。
もしくは、夢での出来事だったかもしれない。
「寝なおすか、、、」
まだ、時刻は深夜で起きるのには早すぎる。
布団に入り直し、体を少し動かしてポジションを整える。
すると、誰かが階段を慌てて登ってくる音が聞こえた。
この宿屋は1階が受付と食事処になっていて、宿屋としての部屋は2階になる。
さすがに、こんな夜更けに新しいお客が来て、そんなに慌てて部屋に入ることなんて無いと思うんだけど、、、
――コンコン! コンコン!!!
先ほどまで聞こえていた足音が俺たちの部屋の前で止まり、ものすごい勢いでドアがノックされた。
どうやら、さっきの声も幻聴ではなく、誰かが俺を訪ねてきたみたいだ。
「――すみません! 私です。サラです!」
――サラさん?
『神鋼』の件は、確か予定では後3日はかかるはずだったんだけど、、、
(――もう『神鋼』が手に入ったのかな? でも、だからと言って、こんな時間にこんなに慌ててくることもないと思うけど)
ともかく出迎えようと、ベッドを出てドアに行く。
そして鍵を開けて、ドアを開ける。
ドアの先にいたのは、確かにサラさん(?)だった。
なぜ、(?)が付くのかと言うと、、、
今まで会った時のサラさんと大きな違いがあったからだ。
サラさんは着ている服が至る所ほつれ、そこから除く肌には、いくつかの切り傷がついて、血や埃まみれになっていた。
「――サラさんっ!? その格好、、、 どうしたんですかっ!?」
「すみません。急遽伝えなきゃいけないことが出来まして」
「ともかく、部屋の中へ。傷も治しますから」
「ありがとうございます」
サラさんを部屋の中に招き入れ、椅子に座らせる。
少しうるさくしすぎたせいで、3人も起きてしまったみたいで、サラさんを見て驚いていた。
急な事態で驚くミミとココネに、飲み物と替えの服を用意してもらい、その間に俺は魔法でサラさんの怪我を治す。
「――それで、何があったんですが?」
「はい、、、 シロウさんからお預かりした刀を持ってガント村に行ったのですが、、、」
サラさんが言い淀む。
いつもは凛としたクールな表情をしているのだが、今のサラさんの表情には恐怖の色が浮かんでいた。
「もしかして、ガント村に何かあったんですか?」
「――はい、、、 私がガント村に着いた時、ガント村は無くなっていました」
「――っ!? 無くなっていた!?」
「そうです。正確には壊滅していたと言えばいいんでしょうか。ガント村があった場所は建物などの残骸があるだけで、そこには『何か』が居ました」
「『何か』ですか?」
「たぶん魔物だと思います。ですが、あれは普通の魔物ではありません。目が合った瞬間、私は今までに感じたことのない恐怖を感じました。なんとか命辛々逃げてきましたが、ガント村の皆も生きているかわからないですし、『神鋼』もどうなっているかわかりません」
サラさんの言葉は、何度もかみ砕いて、ようやく理解することができた。
「――それで、私は今から、ギルドに行こうと思います」
「ギルドに?」
「はい。あの化け物を倒すために討伐隊を編成してもらおうと思います。本来ガント村のことは手出し無用なんですが、今はそんなことを言っている事態ではありませんので」
――確かにその通りだ。
そもそも俺のところに先に来るのがおかしいぐらいの状態のはず。
ガント村は規模こそ大きくないけどダークエルフの村で、ダークエルフは血が混ざったハーフエルフや人間などより、種族的に強い。
その村が1匹の『何か』に滅ぼされたとしたら、その『何か』は、かなりの危険を持つ。
もし、その『何か』が、この町を襲ったりでもしたら、被害は考えたくはない。
――ただし。
(常駐している冒険者や兵士で討伐隊を組んで、戦いを挑んだとしても、、、)
ダークエルフの村を壊滅できる化け物相手に、犠牲無しで勝つことはできないだろう。
この町の冒険者や兵士の強さは知らないが、犠牲はかなりの数出てしまうのは間違いないと思う。
(――それに、討伐隊がその『何か』を倒したとして、ガント村の財産は補填に使われる可能性が高いよな)
その中で『神鋼』は一般人がどうこう出来る素材ではないので、たぶん売りに出されるだろう。
それを狙って買えないこともないかもしれないけど、不安が残る。
確実なのは、俺が行って『何か』を倒し、『神鋼』をこっそり回収することだ。
「――サラさん待って」
ギルドに向かうために、部屋から出て行こうとしたサラさんを呼び止める。
「なんでしょうか?」
「――俺が、行く」
いろんなことを考えても、俺が行くのが一番理想だ。
俺は下手な勇者や魔族などより強いし、『神鋼』を手に入れるためにも、俺が行くのがよさそうだ。
その『何か』の正体や強さはわからないのが、唯一の不安だが、、、
――まあ、なんとかなるだろう




