《旅立ち》
玉座奥の穴に飛び込むと、そこは湿ってツルツルで天然の滑り台だった。
勢いよく滑り出した櫂は、このまま下まで滑り落ちるのかと思っていたら、
ドンっ! と何かの上に着地し、
バチャーン! と着水したしたようだ。
暗くて良く分からないが、それは木で出来ており、底がある円柱形だった。
そのタライの様な乗り物に乗って、流れの早い人工の川のような洞窟内を滑っている。
タライの縁をしっかり握り、右に左にクネクネと曲がりながら下っていく。
速度が速い状態で曲がると左右に体を持っていかれるが、不思議と恐怖や不安感は全くない。
この洞窟に、山全体に守られているようで、逆にとても幸せな気分だった。
それに、そもそもこのクネクネは速度を落とす為の仕掛けなのかもしれないな。
ザッパ~ン!
いろいろ考えているうちに、タライが水面に着いたようだ。
プカプカ
その後は暗闇の中でゆっくりと洞窟内の川を流れている。
バチャーン!
ボチャーン!
しばらくすると後方から続々と何かが水面に落ちる音が聞こえてくる。
ゆらゆらと揺れながら水面を漂っていると、徐々に潮の匂いが強くなってきた。
ゴンッ!
何かにぶつかった。
「いてっ。」
それは先に飛び込んだ団丸の声だ。
どうやらここが行き止まりのようだ。
「団丸。」
櫂が声かけると。
「かい、きれいだよ~」
洞窟内がだんだん明るくなってくる。
朝日が昇りキラキラと水面が輝きだす。
叙里、蓮と奏、姫と桃それぞれがタライに乗って、昇ってくる朝日を見つめる。
後方からは氷漬けの魚や肉、野菜などの食料を乗せたタライが続々と流れてくる。
洞窟内がはっきりと見えてきた。
海に向かって開けた広い空間には、大きな船が悠然と浮かんでいる。
朝日に輝く船を見つめる櫂の目からは涙が溢れ出した。
霧がいなくなって、これからはずっと一人だと思っていた。
もしかしたら霧が居た時から一人だと思い込んでいたのかもしれない。
「わぁ~食べ物がいっぱいある~。」
団丸は続々と流れてくるタライに喜びを爆発させる。
「ほぉ~、これは氷漬けで日持ちしますね。」
叙里はこの先のことまで考えているようだ。
「櫂、大丈夫。」
「櫂殿。」
桃と姫は泣いている櫂を心配している。
「櫂。」
蓮があの目で見つめてくる。
「蓮、ずっとこのままで。。。」
「わっ。櫂そっちに行かせてくれ~。」
奏が抱きつくと、蓮は困ったように櫂のタライに逃げようとしている。
でも僕には、この愉快な仲間がいる。
そして・・・
櫂はギュッと両手を合わせて、形見の勾玉を胸に押し込む。
親にこんなにも愛されていた事を初めて知った。
自分を犠牲にしても、櫂を守ってくれた。
その愛の深さに全身が幸せなキュイ~ンに包まれた。
「お父さん、お母さん。」
目の前にはもう一つの形見、津島忍者の船が圧倒的な存在感で、櫂を包み込んでくれているようだ。
******************
朝露で輝く草木は優しい風に揺れ、楽しげに会話をしている。
障子戸が開け放たれ、庭と溶け込んだ屋敷の中で、悠子は両手で水晶を包み込むように優しくなでている。
「そうよ、運命は変えられるのよ。」
先日までは櫂達桜忍者六人で苦難を乗り越えていく姿が水晶に映っっていたが、今は姫も入れて七人になっていた。
「宿る命と運ぶ命、貴方は今、自分で切り開いた命を運んでいるのですよ。」
「自分の心を信じて進みなさい。」
遠くの櫂に届くように、朝焼けの空を見上げて語りかけた。
久しぶりに清々しい朝の風が、悠子の顔をなで髪をなびかせている。
その手がやさしく包み込んでいた水晶の奥では、さっきまで消えてたはずの黒い影が、また微かに燻り始めた。
最後まで読んでいただきまして、誠にありがとうございます。
これにて第一部が終了です。
この夏は、初めて書いた小説を誰かに読ませてしまうという大変な暴挙に出てしまいました(笑)
何となく分かっていたことですが、読者数は最後まであまり伸びませんでした(汗)
僕には小説を書く才能が無いのかもしれませんね(泣)
それでも一人だけブックマークを頂けたのはとても嬉しかったです。
また初めてコメントを頂いたヨシさん、書ききる勇気を頂きました。
そのお二人に心から御礼を申し上げます。
本当にありがとうございます。
実は三部までの構想は既に出来ているのですが、というより本来は三部で一つの物語です。
でも、ちょっと凹んでいるので二部を書くのには少し時間がかかるかも(><)
よろしければ、次作へのモチベアップと勉強の為にも感想を頂ければ幸いです。




