《氷柱の広間 その三》
ドカーン!
さらに大きな音が背後から響いた。
揺れが徐々に小さくなり振り返ると、玉座の背もたれが向こう側に倒れて、壁に大きな穴が開いている。
その穴は相当に奥まで続いているようで、湿った広場内に涼しい風が吹き込んできた。
魔法石から伸びた光の束も徐々に収束し揺れも完全に収まった。
「姫、ご無事ですか。」
姫は震えながら桃に抱き着く。
奏はその横で姫を守るように周囲を警戒する。
叙里、蓮、櫂、団丸は玉座の後ろに開いた大きな穴を調べに向かう。
「この穴は相当深いですね。」
「でも真下じゃなくて、斜め下向きだな。」
「粘着草履があれば降りられるかもしれませんね。」
叙里と蓮の会話の最中に、櫂はまた不思議な感覚にとらわれた。
-カイ、おいで-
-そこから滑っておいで-
櫂は下に向かって伸びている真っ暗な穴に吸い込まれそうだ。
「うわ~涼しくて気持ちいいな~。」
団丸は穴を覗き込む櫂の背後から、さらに身を乗り出して涼を楽しんでいる。
「櫂はどう思う。」
「えっ。」
「わわわわわぁ~。スベル、すべるよ~」
蓮に呼ばれて櫂が振り返ると、団丸が穴に滑り落ちてい行った。
奥に倒れこんだ背もたれは風化してゴツゴツしているが、その先はツルツルしているようで、あっという間に団丸の姿は見えなくなった。
六人があっけにとられて顔を見合わせていると。
バチャ~ン!
穴の奥からは大きな水音と、風に乗って微かに潮の匂いがしてきた。
「櫂。」
蓮はどうすればいいのか櫂の意見を聞きたいようだ。
大丈夫だよ♪ 飛び込んでいいのよ♪♪
いつの間にか櫂の肩には精霊達が並んで、楽し気にチョコンと座っている。
「大丈夫だって。飛び込もう。」
「よし、飛び込もう。」
「分かったわよ。」
「かっかっかっかっ」
櫂の提案に同意する蓮、それに同意する奏、言葉にならない叙里。
「お先にどうぞ。」
「なっなっな~~~。」
「蓮、一緒に行きましょう。」
奏は叙里の背中を手で突き、押し込んだ後、蓮の手を握り奥へ進む。
あきらめ顔で引っ張られるままに一緒に滑っていく蓮。
「姫、桃、大丈夫だよ。きっと、この先に船があるよ。」
「じゃあ先に行ってるね。姫、一緒に行きましょう。」
櫂の確信に満ちた言葉に、姫と桃は安心して一緒に滑っていく。
一人残った櫂は、光に包まれている懐かしい広間をゆっくりと見回す。
中央の魔法石の上で凍りながら眠る自分がいた。
右には頼もしい兄、左には優しい霧。
そして右手を開き、微かに光る勾玉をじっと見つめて、両手と胸でギュッと抱きしめた。




