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にん~行雲流水~  作者: 石原に太郎Ver.15y-o
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《藤原信西》

「泰親はまだ来んのか。」


藤原信西は田原荘の別邸で安倍泰親を待っていた。


この別邸は結界を張る準備のために、四方に五芒星が描かれており、屋敷中央の間には五芒星に加えて祭壇まで用意されている。


信西は幼いころに養子に出され高階通憲という名であったが、当世無双の宏才博覧と称され鳥羽上皇にも推薦され藤原姓に復姓した。

しかしその後すぐに出家して信西と名乗った。出家をしても俗界から離れる気は全くなく、普通に僧侶が着る墨染めの衣を身に纏ってはいるが、所作や思考回路は同族内で権力闘争を繰り返す藤原氏そのものであった。

信西が従来の藤原氏流の朝廷を中心に政権活動をしているのに対し、信頼は時代の流れを敏感に察知し、新興勢力の武士を取り込み安定した朝廷統治を目指しており、後白河法皇が天皇の時に急激に力を付けてきた。

もはや二人の対立構図は明確になり、有力武士も二派に分かれつつあった。


その武士の中で最大勢力の平清盛が急に京を留守にしてしまった。

しかも三ヶ月前からは頼みの椛忍者とも連絡が取れない。

そして数日前、最後に椛忍者の里に送った使者が棺桶に入れら死者として戻ってきた。

それを見た信西は急ぎ身支度を整えると別邸に身を隠し陰陽師の安倍家に助勢要請の使者を出した。


安倍家は平和の為ならと、あの安倍泰親が直々に来てくれる事になっていたのだが、いつまで経っても頼りの泰親が現れる気配がない。

それから催促の使者を何度か送ったが帰ってこない。


急いで京を飛び出したはいいが、ここ田原荘の屋敷は信頼にも知られている。

このままではいつ源義朝らが攻め入ってくるか分からない。

京には戻りたくないが、ここは安倍泰親の館まで逃げ込んだ方がいいのではないか。


考えあぐねた末に、とうとう居てもたってもいられず、信西は変装して京の外れにある安倍泰親の館に行くことを決意した。


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