《初冬の黒組見習い戦忍小屋》
その日の午後、櫂は教忍有慈小屋での修業終了が言い渡され、黒組見習い戦忍小屋は久しぶりに元の四人組になった。
囲炉裏を囲んでそれぞれにポツンと座っている。
当然のことだが蓮と奏がいつも座っていた場所からはあの眩しい氣が感じられない。
逆にその空間にはポッカリと穴が開いてしまったようだ。
し~んと静まり返る小屋。
櫂は何をしていいのか分からない。
桃は叙里は団丸は何をしているのだろう。
自分からは何を話していいか分からず、また団丸が何か話してくれないかと思っていると。
「なあ櫂、戦忍って何だろうな。」
櫂は予想外の団丸の言葉に驚いた。
昨日のようにその明るさで雰囲気を変えてくれると思っていた。
こんなに暗い団丸の声を初めて聞いた。なんて答えればいいのか分からずに櫂は俯いて黙っていると、
「そうね。」
桃はそれだけ言うと黙り込んだ。
「なあ叙里はどう思う。」
櫂が答えないので、団丸は叙里に聞いた。
「戦闘忍者です。」
そのままの答えだ。
「みんなお腹一杯食べられるのかな~。」
団丸なりに蓮達を心配している気持ちは伝わってくる。
しばらく四人は無言で佇む。
カタカタと寒風が戸を揺らしている。
「それより、今日は何かおかしいと思いませんでしたか。」
櫂はドキッとした。
そうだ、確かに何かが違うんだと櫂も思っていた。
「何がおかしいの。」
団丸の声が少し明るくなっていた。
「気になるところはいくつかありますが、超長老は何か変でした。」
そうだ、その通りだ、櫂は心の中で呟いた。
「何が変なの。」
こういう時に素直に分からないことを聞いてくれる団丸は憎めない。
「いつもの超長老ならあんなに事を急ぐでしょうか。」
三人とも黙っているので叙里が続けた。
「何か焦っているようなそんな気がするのです。」
「何で焦ってるの。」
「それは分かりませんが、」
と言って三人をそれぞれを見回すと、
「理由は分かりませんが、現状を繋ぎ合せた推測ならできます。」
「うん、その推測は当たってる気がするわ。」
まだ何も話していないのに桃の直感が動いたようだ。
「叙里、推測でいいから聞かせて。」
櫂もそれが気になる。
「準戦時体制になった後の津島忍者の昔話と竜神の神話を覚えていますか。」
「うん、覚えてるよ。」
櫂は二度目だったので、内容もよく理解できた。
「あの時に推測で話した桜忍者が津島忍者の殲滅に深く関わっていて、それを何かしらの理由で隠す為に作られたのが龍神の神話というのが本当に正しいのかもしれません。」
「それと甲種戦忍が京に行くのと、どう繋がるの。」
また少し難しくなりそうだ。
「櫂、ちょっと待って下さい。一つ一つの質問に答える前に、まずは推測を繋げていきましょう。」
そう言って立ち上がると懐から取り出した石灰棒で壁に描きながら話し始めた。
「これが元々あった津島忍者の昔話です。」
とちょうど自分の目線のあたりに津島忍者と書いた。
「そこには教訓として各忍者は欲を出さずお互いに協力しろと書かれています。」
津島忍者の下に大きな円を描き、その円の線上に等間隔で木火土金水と書いてそれぞれを丸で囲った。
「次に龍神の神話です。」
と右に移動して自分の目線のあたりに龍神と書いた。
「そこには、戦が起こらないようにお互いを監視しろと書かれています。」
龍神の下に星を書きその先端に木火土金水と書きそれぞれを丸で囲った。
「昔話と神話から推測する各忍者の立ち位置を図にしてみました」
と言って三人を見渡すが、一様にポカンとしている。
「しかも津島忍者の昔話では忍者が自主的に争いを起こさないと誓い人里離れてひっそりと暮らすようになりましたが、龍神の神話では戦が起きたら龍神が全て焼き尽くすと恐怖と監視で戦が起きないようにしています。」
三人のポカンは変わらない。
「この星と円の二つの図から何か思い当たることはありませんか。」
ポカンがキョトンに変わっただけだ。
櫂は図がよく見えないので頭の中で星と円をイメージする。
「あっ!」
櫂には何かが分かったようだ。
「えっなになに。」
桃は櫂の腕を引っ張る。
「えっ!分かったの櫂」
団丸は櫂が分かったことにビックリしてる。なんだか失礼な奴だ。
「そうです、櫂は気づいた様ですが。これは五行相生と五行相剋です。」
「でもちょっと待って、」
櫂には何かが引っ掛かっているようだ。
「え~っと、前回は津島忍者の昔話が五行相剋じゃなかったっけ。」
その質問に叙里はニヤリとして
「その通りです。津島忍者の昔話には両方入っているのです。」
そう言うと津島忍者の下に書いた大きい円の中に星を書き、
「怖い話の方が頭に残りやすいですが、桃の村では特産品と嫁の話はどう言われていましたか。」
「え~っと仲良くなって特産品のお酒と火鉢を交換して、次は嫁に檜の箪笥を持たせて嫁がせるの。」
「団丸の村はどうですか。」
「えっとね、おいらの村は特産品の火鉢と砂金を交換して、嫁に茶碗を持たせて嫁がせる。」
「あっ!」
櫂の声にみんな振り向く。
「そうなんだ。本当は、やっぱり津島忍者は優しかったんだ。」
櫂は嬉しくて少し涙声になった。
「そうですよ、櫂。津島忍者は優しかったのです。」
叙里は丸で囲んだ木火土金水の外側に、それぞれ箪笥、火鉢、茶碗、砂金、お酒と書いた。
「まずは身を守るために天敵である相克関係を強く示して、お互いに協力するために優しく相生関係も入れているのです。しかも相克は避けるためで攻撃先は書いていません。」
「攻撃先ってなに」
団丸の質問に、またまた叙里はニヤリとして
「団丸の村は土系で大木で潰されていますが、逆に相手を土に生き埋めにもできるのですよ。」
「えっそれはダメだよ。可哀想だよ」
団丸は悲しい声で答える。
「そうです、五行相克で土系は木系に弱いけど水系には強いのです。でもそこは津島忍者の昔話には出てきません。」
「叙里すごいわ。」
桃は叙里に初めて頼りがいを感じた。
「津島忍者すげぇな」
団丸はよく分からないが、津島忍者に共感したようだ。」
「やっぱり津島忍者は、津島にんんじゃあ~」
櫂は何故か本当に泣いてしまった。
「櫂、続けていいですか。」
うんうんと泣きながら頷く櫂。
「では、先に進めます。ここから先程の櫂の質問にも絡んでくるのですが。。。」
久しぶりの一体感に叙里の話は深夜まで続いた。




