《験厳洞窟》
ぴちょん・ぴちょん
天井から糸を引くように水がしたたり落ちている。
験厳洞窟の中はヒンヤリとして、冷たく湿った岩の匂いが充満している。
微かに明るく感じるのは光苔のせいで所々に群生しているらしい。
昨日桜が散り嶮洞窟の試練が発表された。
それにより昨夜は四人で暮らす最後の夜となった。
各々が集中を高めたり、道具の手入れをしたり、明日に備えて自分なりの準備をしている時に、
「今日が最後の夜になるのかな。」
それは桃の寂しげな声から始まった。
それぞれに動かしている手を止めて、思い思いの視線を桃に向ける。
いつもとは違う真剣な目で見つめられモジモジしている。
「あの~~~」
思い切って言い出したはいいが、みんなの強い視線を感じ、
「え~~~っと~」
恥ずかしくて言葉が出ないようだ。
「もも」櫂は優しく肩に手を置いた。
桃は横目で微かに櫂の手を見て顔を見て、ふぅ~っと息を吐き出してから、
「みんなは本当に四人班から戦忍は出ないと思ってるのかな。」
そう言うと自分を奮い立たせるようにパンと手を叩き、決心したように顔を上げ
「いつも言ってるけど、本当に、絶対にこの班から戦忍を出そう。」
「それも一人じゃなくて。。。」
団丸、叙里、櫂それぞれの顔を見て頷き、飛び切りの笑顔で、
「みんなで一緒に戦忍になりたいの。」
寂しげな声から一転し急に明るく力強くなったその声に笑いが起きてもおかしくないのだが、今日の小屋はいつもと空気が違った。
「私はたくさん忍術を覚えて、神隠しにあった修忍見習いを探しに行きたいの。」
そこまでは時々聞いている桃の目標だったが、
「それも本心だけど本当は幼馴染の松吉を助けたいの。」
そう言いながら目は涙で一杯だった。
「知ってると思うけど、里に来る途中で、時々神隠しがあるでしょ。」
さらに涙が溢れ出す。
「松吉は親が行方不明で大変で、自分は神隠しで」
もう堪え切れないようだ。
「なっ、なんで、松吉だけぇ、そんな目に合うのよぉおぉ~、おぁ~ん」
とうとう号泣しだした。
「きっきっと、きっとね、今でも、何処かで、一人で、寂しく、助けを待っているのよ~、そうに違いないのよ~。わぁ~ん」
「そっそうだね、きっきっとそうだよぉ~」
つられた団丸の大泣きが始まると、桃は何かが吹っ切れたように、団丸の手を握り、櫂、叙里の目を見つめ。
「だから・みんなで一緒に戦忍になろう!」
「なろう!」
団丸と桃の勢いに押されたのか、何故か櫂も一緒に気勢を上げていた。
隣ではあの叙里も拳を握り小さく気勢を上げていた。
その姿にみんなの視線は叙里に集まる。
しばしの沈黙
「僕は色んな忍具を作りたいです。」
照れくさそうに話し出した。
「いっ今まで、聞かれても、答えられなかったけど。」
集まる視線に更に声は小さくなり、また沈黙が訪れるかと思った時、
「知ってるよ。」
叙里はキョトンとして櫂を見た。
「岩移りの時は本当にありがとう、叙里のお蔭でトラウマが乗り越えられた。
「・・・」
叙里は俯いたままだ。
「叙里は便利な忍具をいっぱい作ってみんなを助けたいんでしょ。」
櫂のまっすぐな言葉に叙里は珍しく涙目になった。
「ぼ~僕は~」
ずずぅ~っと鼻を啜りながら
「僕は実に運動音痴です。でも、それても、みんにゃと一緒に戦いちゃいにょれす。」
団丸が叙里に鼻をかむように布を手渡した。
ズビ~ンと大きく鼻をかみ、涙をぬぐい、
「そしていつか戦忍軍師になって、新しい戦略を作って、誰も死なない戦がしたいです。」
それは初めて聞く叙里の力強い声だった。
「オイラは日ノ本で一番強くなりたい。」
団丸のいつもより五割増しの大声だった。
「強くなっててみんなを守りたい。」
いつもながら明快で分かりやすい目標だ。
「そしてお腹いっぱいご飯を食べたい。」
言葉だけでは繋がりがよく分からないが、その妙な説得力にきっと団丸の中では、強くなる事とお腹いっぱい食べる事が繋がっているであろうことは理解できた。
櫂は戦忍になって霧を喜ばせたいといつもの目標からはじめたが、ここでは全て話すべきだと思った。
「僕は目が見えないでしょ、それで霧は結婚もできないみたい。」
「早く独り立ちして霧を自由にさせたい。」
しばしの間があり、
「桃も団丸も叙里も親の顔は分かるよね。」
「見えるか見えないかって話ではなくて、知ってるかどうかだけど。」
「霧は僕の従姉で、いつも優しくて、」
「もしかしたら、本当の親より優しいかもしれないけど。」
「お父さんもお母さんも知らないんだ。」
「でも僕がここにいるということは、絶対に産んでくれた親がいるはずなんだ。」
「だから、親を探したい。」
「その為に何をすればいいか、全く分からない。」
「戦忍になっても両親が分かるかどうか。」
「だけど戦忍になれば何かが変わる。」
「自分が強く大きくならないと何も変わらないことだけは分かる。」
「ただ一生懸命に今出来ることをぜんぶ本気でやる。」
「そうすればきっといつかは会えると信じてる。」
「一度でいいから、お母さんお父さんの顔を触わってみたい。」
溢れ出す涙も鼻水もお構いましに心の奥にしまっていた全てを吐き出した。
いつの間にか全員が涙と鼻水でグチャグチャの櫂の手にそれぞれの手を重ねていた。
「よし、みんなで一緒に戦忍になろう!」
「お~!」
団丸の音頭で重ねた手を一斉に天井に突き上げた。
つ~る よ~い よ~い よ~い つ~る よ~い よ~い よ~い
さい~の~むらにぃ~はぁ~ たかぁ~らぁ~のぉ~ やぁ~まよ~
桃は涙声でも上機嫌に歌いだした。
みんなで手拍子と合いの手を入れ、お互いの村祭りの歌を披露し合った。
盛り上がり過ぎて誰も気付いていないが、叙里が鼻をかんだ布は団丸の股間から伸びており、おそらくそれはふんどしに違いなかった。




