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にん~行雲流水~  作者: 石原に太郎Ver.15y-o
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《春の夢》

いつの時代の事だろうか、櫂は昨日も不思議な夢を見た。


どこへゆく~ どこへゆく~


櫂は誰かに抱えられながら逃げ回っているようだ。


上空では雄叫びと共に火炎を吹き出す赤い龍が旋回している。

その眼下にある村は炎に包まれている。

逃げ惑う村人たち。


あまりにも怖くてギュッと強く目を閉じると、真言が聞こえてきた。


ノウマク サラバタタギャテイビャク サラバボッケイビャク サラバタタラタ センダマカロシャダ ケンギャキギャキ サラバビギナン ウンタラタ カンマン


ノウマク サラバタタギャテイビャク サラバボッケイビャク サラバタタラタ センダマカロシャダ ケンギャキギャキ サラバビギナン ウンタラタ カンマン


ノウマク サラバタタギャテイビャク サラバボッケイビャク サラバタタラタ センダマカロシャダ ケンギャキギャキ サラバビギナン ウンタラタ カンマン


恐る恐る目を開けると、すぐそこに八歳くらいの蓮がいて精一杯に手を伸ばしている。

何故か僕も精一杯手を伸ばし蓮の手を掴もうとしているようだ。

しかしお互いの中指の先だけがチョンと触れたが、見詰め合ったまま後ろ向きに落下している。

辺りを見回すと、見覚えのある裏山の崖や森が見える。


どうやら夙川村にいるようだが、景色は超スローモーションで、むく鳥の羽ばたきまではっきりと見える。

空中で体を捻りながら、飛び出している木の枝を腕や肩で受け止め、少しでも落下速度を弱めながら落ちて行った。

地面がはっきりと見えてきたので、里で習った回転着地の体制に入った。

着地した瞬間に体の力を抜き、ゴロゴロと転がっていくが、ゴンっと額に強い衝撃を感じて気を失ってしまった。


気が付くと額から血を流し地面に横たわっっている幼い自分を見下ろしていた。


-あれっ、この光景は見たことがある―


たしか八歳の岩移りで足を滑らせた時だ。

しかしあの時見た光景は首や手足があり得ない方向に折れ曲がり、全身血だらけだったので、今日のは随分と優しい夢のようだ。

ただ、霧に買ってもらったあの筆が傍らでグチャグチャに折れ曲がっていたのが悲しかった。


そういえばすっかり忘れていたがあの筆はどこに行ったのだろう。


その日のうちに修忍里の桜は全て散り、夕食後に超長老により験厳洞窟試しを明日行うと発表された。


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